米国商務省通商代表部などの医療分野への規制緩和圧力

公開日 2003年02月25日

小泉内閣による医療制度抜本改悪が急速に展開しはじめた2002年度。もうひとつ見逃せない問題は、米国商務省通商代表部(USTR)や在日米国商工会議所(ACCJ)が軌を一にして日本の医療制度改革や規制緩和を求めてきていることである。包括的な医療改革に関する「首相直轄の協議会」設置や市場原理を医療分野に導入させる病院経営への株式会社参入などを求めることで、日本での新たな利益追求の場として、或いは対日交渉の譲歩策を引き出す手段として使われている。

厚生労働省は昨年12月17日に、医療制度改革に関する試案を両論併記の形で公表した。年度末(3月)の基本方針策定に向かって、今後国会での論戦、国民的論議が展開されようとしている。低成長・超高齢化社会の今後の医療制度のあり方を本源的に論議・検討し、国民のコンセンサスを形成しなければならぬ時期である。昨年7月の健保法の審議においては、政府は国民の2700万を超える反対署名にもかかわらず、民主的な国会論議の手続きを無視して強行採決した。これからの更なる改悪路線を強行するに当たって、小泉流の抵抗勢力排除の手段や言い訳としてこの外圧が利用される可能性を危惧する。日本の政権はこれまで外圧を「改革」促進に利用してきた節もあるが、このような手法とは決別すべきである。

医療制度のあり方はそれぞれの国の歴史と現状の中から改革していくもので、急速な市場原理導入を求めることなどは許されない。一国の安全保障の根幹に係わる医療制度改革は、国民の十分な論議・検討とコンセンサス形成の上ではじめて改革されるものである。欧州諸国の例によれば、医療が国民の権利として確立し、社会全体として連帯して支え合う共通認識に基づいている。そのため、競争原理の導入も社会保障の枠を前提に試みられ、効率性についても常に公平性の確保とのバランスが追求されている。日本の医療は非営利原則と国民皆保険制度のもとで、世界一の長寿国になるなど、それなりによく運営されてきた。そこに株式会社の参入をさせることは医療の格差を拡大し、国民皆保険制度を崩壊させる恐れがある。

そもそも医療現場に市場原理を導入すること自体が無理なことである。現在、民間病院であっても3割近い病院が赤字経営となっており、不採算部門は自治体病院が背負うため、国公立病院は8、9割もの病院が赤字となってしまっている。如何に苦しい経済状況の中でも国民皆保険制度を守り、国民の健康と安全安心を守らねばならない。そのためには団の医療制度改革に対する要求のみでなく、現状の中にある問題点や無駄・非効率については医師をはじめ医療関係者も率直に自己改革せねばならぬと考える。

自らの圏の医療制度は自らの努力で判断・改革すべきで国会・国民的論議の醸成とコンセンサスを形成した、少なくとも外圧に属したり利用されない医療制度改革を進めるべきである。私たち保険医協会はそのために努力する決意である。

東京保険医新聞2003年2月25日号より