保険医の生活と権利を守る東京保険医協会

【視点】障害者の介護「優先」問題を考える

公開日 2017年07月07日

日本障害者センター 事務局次長・理事   山崎 光弘

軽度者切り・「自立支援」シフトがもたらすもの

「共生型サービス」導入で危惧される障害者の負担増加とサービスの低下

介護優先を固定化する「地域包括ケア強化法」

現在、介護保険優先原則(優先原則)に基づき、障害者が介護保険制度への移行を強要され、利用料負担が課せられること、支援の質と量が低下するといった問題が大きなテーマになっています。厚生労働省は、2007年に適用関係通知を出し、障害福祉の上乗せ・横出し等を認めているため、問題はないと説明してきました。しかし、自治体が介護保険に移行しないという理由で障害福祉サービスを打ち切ったことをきっかけに、岡山と千葉では訴訟問題に発展。2015年度に厚生労働省は両制度の併用関係等に係る調査を実施するだけでなく、昨年の障害者総合支援法の見直しでは一部障害高齢者の負担軽減策を創設し、本年5月26日に成立した「地域包括ケア強化法案」(「強化法案」)では「丸ごと」化の第一弾として「共生型サービス」を新設しました。

厚生労働省は、これらは介護保険制度への移行に伴う費用負担と事業所の移行に伴うサービスの質の低下の問題を解消するための仕組みであると説明しています。しかし、これらは介護保険制度を前提としているため、結果として、優先原則が固定化・強化され、様々な問題を生じさせることが懸念されます。

例えば、全ての障害者が負担軽減の対象になるわけではないため公平性の問題が出てきます※。また、仮にこの対象となった場合でも、それ以降に障害が重くなる、または二次障害が生じた場合、新たに使い始めた、または追加したサービス分に関しても負担軽減の対象になるのかは分かりません。この分は加齢に伴う障害とされ、負担軽減にならない可能性も懸念されます。また、介護保険の生活援助と障害福祉の家事援助は法律的には差異はありませんが、介護保険の場合、通知で禁止事項が明確化されているため、支援内容が異なっています。

この結果、仮に「共生型サービス」が実現し、事業所や職員が変わらなくても、実際には制度の違いにより支援の内容は異なってくるのです。これらのことだけでも、厚生労働省の説明には矛盾があることは明らかです。

170705_01_障害程度区分認定者の要介護状態区分

介護「軽度者」として多くの障害者が切り捨てられる

さらに、「共生型サービス」に関しては、現在進められている軽度者切りとの関係からも考えておく必要があります。現在、軽度者切りの先駆けとして地域支援事業(介護保険制度)の市町村への移管が進められていますが、新しい総合事業(新事業)の拡充にあたって要支援者向けの訪問介護・通所介護の報酬が大幅に引き下げられました(予防訪問介護マイナス4.8%、予防通所介護マイナス20~22%)。この結果、採算性の問題から事業者の撤退が生じ、利用者が十分なケアを受けられない、または、新規利用者の受け入れ拒否等の問題が生じています。

確かに、今回の介護保険法の「改正」にあたって、軽度者の生活援助の新事業への移管は見送られました。しかし、「骨太の方針2017」において、2018年の報酬改定では、生活援助を中心に訪問介護を行う場合の人員配置基準の緩和やそれに応じた報酬単価の設定、及び通所介護などその他の給付の適正化などを行うと明記されています。

新事業に移管されなくとも、報酬単価等が引き下げられれば、新事業と同様の問題が生じることは間違いありません。さらに、財務省はこうした給付抑制を家事援助(障害福祉)にも適用することを求めていることから、その影響は障害福祉にも及ぶ可能性もあります。もし、こうした軽度者切りが進めば、「共生型サービス」が設けられたとしても、事業者は経営的問題から軽度者の受け入れが困難になることは明らかです。事業経営者としては、経営を維持するために「共生型サービス」を活用して、重度の要介護者・障害者を優先して受け入れるという戦略を取らざるを得なくなる可能性も出てくるでしょう。

障害福祉の上乗せサービスが介護優先で困難に

特に、障害者が介護保険に移行されると、31.6%は要支援1・2に、30.9%は要介護1・2となることが厚生労働省の調査によって明らかにされています。同省はこの移行に伴って障害福祉に相当する介護保険のサービスの量が移行前より減少した場合には、その分の障害福祉サービスの上乗せを認めていますが、その条件として介護保険給付を上限まで使い切らなくてはなりません。しかし、受け入れ事業所が見つからなければ、この条件を満たせないため、上乗せさえ認められなくなります。さらに、一部障害高齢者の負担軽減策も意味をなさなくなります。

同様の問題は、医療保険より介護保険が優先される、訪問・通所リハ、訪問看護(精神科訪問看護除く、また一部例外あり)等でも生じる可能性があります。

安倍首相は第二回未来投資会議において、介護保険を「自立支援」へとシフトすると明言しました。ここで言う「自立」とは、支援を受けながら障害のない人と同じような生活を送ることではなく、要介護度の軽度化・制度からの「卒業」を意味しています。こうした方向で「改革」が進められれば、医療・介護報酬の改定にあたってもリハ等の報酬単価も成功報酬方式が強化され、結果として、改善が見込めない軽度者(特に障害者)が受け入れ先を見つけることが困難になることは明らかです。

維持期リハの介護移行で、医療費助成の対象外になるおそれ

また、これは軽度者切りとは直接関係ありませんが、リハ等が医療保険から介護保険に移行されると、その費用は重度心身障害者医療費助成制度(多くの自治体では無料)による助成対象から外れるという点も注意しておく必要があります。これにより、リハ等に際して利用者負担が発生、または負担増(1割~3割)となり、実際に受給抑制をするケースも出てきています。来年度の診療報酬改定で要介護者等への維持期リハの経過措置が廃止されれば、こうした問題が次々に表面化してくると思われます。さらに、「強化法」では現役並み所得のある介護保険利用者の3割負担化を導入しようとしていますが、今後、利用者負担が強化されていけば、所得保障も十分な医療も受けられない事態に陥る危険性も生じるでしょう。

こうした流れは、地域医療構想における軽症長期入院者の地域移行にも共通するものです。もちろん、地域生活は重要ですが、彼らを受け止めるだけの社会資源が地域に整っていると言えるでしょうか。そして、今後は「地域包括ケア強化法」を根拠に、財政難と少子高齢化を理由に社会福祉の基盤整備の責任は行政から地域住民等に転嫁されていきます。こうした医療・介護難民等への支援の責任転嫁は、社会のいっそうの不安定化をもたらすと思われます。

※6月26日の社保審第85回障害者部会において高齢者負担軽減策の基準等(案)が示されました。①介護保険サービスに相当する障害福祉サービス(居宅介護・重度訪問介護・生活介護・短期入所)の支給決定を5年受けていた者②障害支援区分2以上③低所得者・生活保護受給者④65歳になるまで介護保険を利用していない者(特定疾病で要介護状態となった第二号被保険者は対象外)。
さらに、厚労省への問い合わせで介護保険の新しい総合支援事業は障害福祉よりも優先されるが、この事業は市町村の独自事業であるため、要支援者は負担軽減策の対象外という方向で検討しているという大問題も明らかになっています。

(『東京保険医新聞』2017年7月5日号掲載)