保険医の生活と権利を守る東京保険医協会

【主張】医療ビッグデータ活用の問題点

公開日 2017年07月07日

国民への説明とその同意があったのか

医療ビッグデータの定義は定まっていません。医療に関する様々なデータを集積して分析すれば、医療の質や効率を高めることができます。このとき分析の成果は、データの量と品質に依存します。厚労省は保険診療のレセプト情報と特定健診の情報を集め、さらにDPC(Diagnosis Procedure Combination:診断群分類)対象病院のレセプト情報を加えたデータベースを構築して、NDB(National Data Base)と名付けています。各自治体から厚労省に提出される介護保険の情報も、「介護保険総合データベース」となっています。2012年4月から2016年12月までの間に、およそ110億件のデータが集まったといわれます。

しかし外来診療のレセプトは単なる請求書であって、検査成績も病名の根拠も示されず、さまざまなレセコンが使用されていることもあって書式が不統一、科学的には質の悪い情報です。しかも、特定健診のデータとは連結できないことも判明しています。このため外来レセプト部分を利用した科学的な研究は、きわめて困難です。

NDBを利用した論文が出されてはいますが、ほとんどすべてがDPC対象病院のデータを利用しています。しかしDPC病院のデータにも治療の詳細な情報がなく、これまでの研究は医療経済、医療資源、臨床疫学、入院期間、手術後の合併症と死亡率、などに限られています。

既発の論文のなかに、不適切処方を疑う割合、という記述がありました。BZ系睡眠薬・鎮静剤21.1%、非BZ系睡眠薬6.0%、抗血小板薬2.7%などを掲げています。しかしよくよく読めば、勝手に疑っているにすぎません。薬剤の処方割合と言うに留めるべきでしょう。データの一人歩きは危険です。

京大病院とその連携病院グループは、グループ内のDPCデータに検査成績や詳細なカルテ情報を追加して、精度の高い分析を行っています。しかし現存するNDBの品質をそこまで高めることは、ほぼ不可能でしょう。データベースは大きければ良いという訳ではなく、関心領域に合ったデータを格納する設計が重要です。請求書の山にかけた投資が、無駄に終わらないことを願うばかりです。

NDBには個人情報が流出するという懸念が、つきまといます。住所、氏名、性別、年齢、病名、保険者、医療機関など、個人を特定できる属性は数字に置き換えられていますが、データを分析するためには、住所変更、改名、転職、転院などがあっても、個人のデータを連結する必要があり、属性の情報は切り離せません。その気になれば、数字を逆にたどって元の属性にたどり着くことは可能です。

ところでレセプトは、医療費用を把握することにおいて、他の追随を許しません。レセプトの点数を全国規模で把握してマイナンバーに結び付ければ、特定の個人に使われた医療費を確実に把握できます。

政府は、税や社会保険料の「納付」と、社会保障の「受給」を生涯で通算し、受給の超過分は遺産で清算しようという考えを持っています。社会保障費を調達する、新しい財源がうまれることになります。しかしそのような目的のためにレセプトデータを利用する、説明と同意はあったのでしょうか。NDBは、早くも再考の時を迎えているようです。

(『東京保険医新聞』2017年7月5日号掲載)

関連ワード