[寄稿]診察は新型コロナ対応で変化するのか

公開日 2020年07月02日

診察は新型コロナ対応で変化するのか

竹内真弓先生

東京都立多摩総合精神保健福祉センター  精神科医  竹内 真弓

 

 

   今年4月10日から新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての時限措置として、初診時においても情報通信機器(電話等)を用いた診療が可能となった。

 筆者は精神科医であり身体診察は主ではないため、精神科診察として電話再診を行ったが、平素は対面診察を重視する主義である。私がいうまでもなく診断学における診察は医学的理論的根拠に基づく。今では呼び出し機で患者を呼ぶが、このような体制になる前、筆者は決してマイクをつかわず、診察室から待合室に行き「○○さん、どうぞ」と呼び込んだ。診察を待つ患者さんの姿、雰囲気から呼ばれた時の反応、診察室に向かうまでの歩き方から動きまで、すべて観察することをモットーとしてきた。

 精神科診察は言葉だけで行うものではない。言語外の情報の方が当然多い。服装の変化、好み、色使い、化粧の仕方で感情性障害の波がわかることもある。患者が話す内容と、現状が解離していることもある。ならばテレビ画像ならいいか。当然否である。匂いも重要な情報となる。同じ空間で同じ体験をすることで治療的な話につなげられることもある。またお互いの醸し出す雰囲気というのは時に治療の武器にもなる。

 かつて小笠原の精神科診療で、医療課の職員に「離島だからテレビ診察を導入してはどうだろうか」と言われ、上記の話(受付から診察は始まる)をしたところ「専門外とはいえ、短絡的でした」と謝られたことがある。

 ところがこの「やむなし診察」でよかったこともわずかにあり、引きこもりの患者などは対面緊張がないため、流ちょうに語るようになったということもあった。また芸術療法などの施行をやむなくリモートでしたところ、効果が見込めることがわかったというクリニックもあった。

 この状況が時限で終わることを願うが「通院が楽ではない」場合によってはこれでいい、と思う患者もいるだろう。この間新型コロナ禍でわかったことだが、医学、医療の判断に至るまでの積み上げられた知識と経験、技術の体系が一般には知られていないと感じる。それこそインターネットやスマホなどの簡便なツールが想像力を削いできたのではないかとも思う。「地図は現地ではない」とはわが師中澤正夫医師の言葉だ。

 医療費を減らしたいわが国の政府がこれに乗じて電話診療の平常化をもくろんでいないとも限らない。今後診察の質を保つために、対面診察の重要性をもっと主張しなくてはいけないのではないか。そして、電話再診で取り落としたことはないか、診療としての質はこれでよかったのか、医師として最大限の注意をしたい。何が診られなくて、何がよい点だったのかの検証がこれから必要だ。

 実地医家の皆様の経験をぜひ教えてほしい。

(『東京保険医新聞』2020年6月15日号掲載)