[寄稿]新型コロナ感染者 自宅療養の不思議

公開日 2020年08月06日

新型コロナ感染者 自宅療養の不思議

吉田 章(練馬区・よしだ内科クリニック)

 

 

 

 新型コロナ感染者数がまた増え始めている。緊急事態宣言解除後その傾向は強まったが、解除前も一定数は出ていた。新型コロナ感染症は指定感染症に指定されたため、当初感染判明者は全員入院していたが、入院ベッドが不足し、3月半ばから無症状、軽症者はホテルなどの中間隔離施設又は自宅療養も認められることとなっている。

 問題は自宅療養である。軽症、無症状であっても感染力はあることがわかっている。自宅では、赤江アナウンサーの例でもわかるように、いくら注意を払っても家族に感染させる危険性がある。最近の研究では、家庭内での感染力はSARSの2倍との報告が出てきている。また、家族がいない場合や友人等の外部からの援助が十分でない場合、生活を維持するために患者本人が外出して必要な品を調達することになり、周囲に感染させる危険を伴うことは明らかである。しかも、感染者は予想外の急変を起こす場合があるが、自宅療養では対応も困難である。自宅療養は入院ベッドや中間隔離施設が満杯のときの最後の手段として使われるものかと小生は思っていた。しかし実際は違っているようだ。

 7月19日現在の東京都の状況では、入院者数917人、宿泊療養136人、自宅療養362人、入院・療養等調整中613人となっており、入院も宿泊療養も満杯とは思えない数なのに、自宅療養が362人もいる。聞くところによると軽症、無症状の場合、希望すれば自宅療養を選ぶことも可能で、自宅では中間隔離施設よりも行動を制限されないこともあって、自宅療養を選ぶ人が結構いるとのことである。

 これはおかしくないだろうか?現在でも指定感染症であり原則入院には変わりなく、入院ベッドが間に合わず仕方なく中間隔離施設、または自宅療養が取り入れられている。自宅療養が取り入れられたといってもあくまでも入院の補完であり、指定感染症の入院は本人の治療だけでなく社会に広げないという役割も持っている。そこに本人の希望が入ってくるというのは小生には解せない。

 最近家庭内感染者が増えていると報告されている。これが自宅療養者からの感染かは発表されていないが、家庭内感染、ひいては市中感染を増やす危険性がある自宅療養は原則廃止にする必要があると考える。
一方、入院・療養等調整中者の問題もクローズアップされてきている。入院・療養等調整中とは病院、施設が決まらないため一時的に自宅待機となっている患者と考えられる。7月19日現在都内で613人と急激に増加しているのであるが、さらに問題なのは、その一部で連絡がとれなくなっていることだ。感染者がいわゆる野放し状態になっているのである。都の発表では、現時点で入院ベッドや施設には余裕があるとされているが、その余裕が不十分で調整に時間を要していることの表れであろう。

 自宅療養、待機いずれにしても感染拡大の危険を孕んでおり、ゼロにする必要がある。そのためには早急に入院ベッド、中間隔離施設を大幅に増やすことが必要であろう。

(『東京保険医新聞』2020年7月25日号掲載)