オンライン資格確認の原則義務化はキケン

公開日 2022年11月07日


須田クリニック 須田 昭夫

 2016年にマイナンバー制度が始まったが、22年9月末でもマイナンバーカードの普及率は全人口の半数以下であった。マイナンバー法によればカードの取得は任意であるが、政府は全国民に持たせようとしている。21年10月からは健康保険証と一体化したマイナ保険証を本格導入した。

 22年6月7日に閣議決定された「骨太の方針2022」に基づき、従来型の保険証を原則廃止して、保険医療機関・薬局に対して「オンラインによる保険証資格確認を23年4月までに導入しない場合には、療養担当規則への違反として行政指導を行って施設認可の取り消しもあり得る」という。しかしマイナンバーカードは国民の半数しか所持しておらず、電子資格確認の運用を開始した医科診療所はまだ約2割、マイナンバーカードで受診する人は1週間に1人いるかどうかだという。

 22年8月24日に行われた「オンライン資格確認の原則義務化に向けた説明会」において厚労省の担当者が「オンライン資格確認の原則義務化に抵抗すれば療養担当規則違反になり、指導の対象となって医療機関指定の取り消し事由ともなりうる」という趣旨の強権的な発言をしたことが混乱を招いている。厚労省は療養担当規則を長年にわたって拡大解釈し、指導と処分を駆使して医師を苦しめてきた。今回は本来マイナンバーカードなしでも可能なオンライン資格確認に、カードリーダーを導入しないだけで、医療機関には死刑にも等しい「認可取り消し」という重罰を科すという。

 裁判なしに不利益処分をおこなうことは憲法に違反し、医療を支えるべき厚労省が医療機関数を減らして国民の医療を奪うならば、本末転倒ではないだろうか。健康保険証の廃止は、閣議決定で行えるものではなく、国会での法改正がなければ変えられないはずだ。

 日本弁護士連合会は2021年5月7日、マイナンバーカードはあらゆる個人情報の国家による一元管理を可能にして、「監視社会化をもたらす恐れ」があることを指摘した。「従来型保険証の廃止」はマイナンバーカード取得を義務付けることになり、「任意取得の原則」に反することも指摘した。

 同連合会は21年9月16日、顔認証システムによるプライバシー侵害を危惧して、「医療機関受付での個人番号カードを用いた顔認証システムの利用」を中止するように求めており、22年9月27日にも同じ見解を表明した。また複数の弁護士が「療養担当規則を変えても、保険医療機関はマイナンバーカードを利用する義務を負わないのではないか」という見解を公表している。

 そもそもマイナンバーカードは国民の健康や資産などの情報を国家が管理して、社会保障費の削減と負担増を行うことを目的としている。個人情報をIT産業などの企業に与えればビジネスチャンスという利益供与になる。英国は「国民ID番号カード制」の人権侵害に気付いて、実施後2年の2010年に廃止した。ドイツは行政分野共通の個人番号は違憲であるとして、採用していない。米国は詐欺被害の多さから軍人の個人番号を国民番号から切り離した。

 マイナンバーカードを利用するとマイナンバー法に同意したものと見なされて、カードの利用による損害は一切補償されないことは、嘘のような本当だ。マイナンバーの記録に誤りがあっても政府には修正の義務がない。コンピューターは忘れることが苦手で、冤罪の罪名は消えない。コンピューターが支配する冷たい社会が近づいているのだろうか。
 

(『東京保険医新聞』2022年11月5号掲載)