[主張]健康保険証の存続を求める

公開日 2023年09月19日

 マイナンバーカード(以下、マイナカード)を巡るトラブルが止まらない。

 政府は8月8日、総点検の中間報告を公表し、マイナカードと一体化したマイナ保険証に誤って他人の情報が登録されていたケースが新たに1069件確認されたことを明らかにした。これまでの累計では8441件となる。

 政府は2023年11月末を期限としてさらに点検を行った上で、最終的な結果を公表するとしているが、一度不適切な形で紐づけされた情報を完全に修復することは不可能との指摘もある。

 マイナカードの自主返納も急増しているが、河野太郎デジタル大臣は「返納は微々たるもの」と述べ、あくまでヒューマンエラーだとして、制度自体の問題を認めようとはしない。

 しかし、他人の医療情報と紐づけされるといった事例は本来1件もあってはならないことである。こうしたミスが多発している背景には、明らかに構造的な問題がある。

 デジタル庁には、個人情報は保護すべきものだという発想も、情報を扱うためのノウハウも欠如している。

医療現場・患者に負担押し付ける「対応策」

 マイナ保険証では保険診療が受けられないとの批判をかわすため、厚労省は7月10日の通知で、マイナ保険証で資格確認ができない場合の対応策として、資格確認ができなくても保険診療として扱うという、従来の窓口事務の常識を覆す取扱いを示した。7月19日の通知では、レセプト請求までに被保険者資格が特定できなかった場合等のレセプト請求方法を示したが、医療機関に事務負担を強いる内容で問題点が多い。

 資格確認ができない場合に患者が記入するとされた、「被保険者資格申立書」には、患者が記憶に基づき記入する箇所が多く、医療機関は不完全であったり、誤っている可能性がある「資格申立書」の記載事項を元に、資格情報を特定する作業が求められ、転記等のミスや、間違った資格情報で請求するリスクを負うことになる。

 喪失済みの資格や過去の受診歴等から確認した資格情報(旧資格情報)に基づいてレセプト請求した場合、レセプト振替機能を活用して医療機関へ返戻することなく新たな保険者に自動的に振り替えることとされている。だが、請求の時点で新たな保険者等からデータ登録がなされていない場合や高額療養費等の場合、社保に請求したが国保又は後期高齢者であることが明白な場合(その逆も同様)等は、レセプト振替ができないため一旦返戻され、改めて請求し直す必要が生じる。

 窓口の資格確認、請求作業ともに手間のかかる作業が増えることになり、医療機関・患者双方にリスクを負わせる内容といえる。

 8月24日の第166回社会保障審議会医療保険部会では、オンライン資格確認の義務化対象外の医療機関等を受診する際に、①マイナ保険証と併せてマイナポータルの被保険者資格情報をスマートフォンで提示することで受診可能とする、②マイナ保険証と併せて、氏名や生年月日、記号・番号、負担割合等が記された「資格情報のお知らせ」を提示することで受診可能とする案が示された。マイナ保険証や健康保険証の代わりとなる「資格確認書」とは異なる、新たな対応策であり、窓口での混乱は避けられない。

小手先の対策ではなく「保険証廃止」の撤回を

 政府は各方面からの批判を受けて「マイナカードを暗証番号無しで交付する」「資格確認書を申請無しで自動交付する」などの対応を打ち出している。しかし、これらの問題は、そもそも保険証を廃止しなければ発生しない問題である。政府の対応はマッチポンプそのものであり、国民の信頼を失っている。

 7月26日の閉会中審査で河野デジタル大臣は「メリットは非常に大きい。医療DXは待ったなしだ」と述べ、保険証を2024年秋に原則廃止する方針を改めて表明した。根本的な問題は、政府のすべての対策が「保険証の廃止」ありきで進められている点にあり、その歪みが医療機関や自治体など、現場への負担として現れている。弥縫策を重ねるほど、現場の混乱は深まり、大量の予算がつぎ込まれることになる。

 求められるのは個人情報保護、自己情報のコントロール権に基づいた、利用する国民の立場に立ったデジタル化であり、医療DXは根本的な見直しが必要だ。

 協会は、国会議員への働きかけや都内各区市町村の地方議会への請願・陳情、署名活動などを通じて、現行の保険証存続を強く求めていく。

(『東京保険医新聞』2023年9月5日号掲載)