[主張]「新たな戦前」に向かう2024年度予算

公開日 2023年10月31日

 2023年8月、各省庁の2024年度予算概算要求が出揃った。

防衛力抜本的強化「2年目」 2022年度比42%増

 2022年12月に閣議決定された安保3文書の方針通り、2024年度予算における防衛費の概算要求は7・7兆円にのぼり、2023年度予算と比較して約17%、2022年度と比較して約42%増となった。他分野の予算と比較しても異様な膨張が際立っている。2024年度は岸田首相が示した5年間の「防衛費2倍化計画」の2年目であり、計画が着実に進められている。

 主要事項には、ミサイルを迎撃するための「統合防空ミサイル防衛能力」に1兆2713億円、「反撃能力」として、ミサイル等により敵基地を攻撃する「スタンド・オフ防衛能力」に7551億円等、「骨太の方針2023」に示された「7つの柱」を中心とする費用が計上された。

 2023年6月16日には、政府が自由に使うことのできる「防衛力強化資金」の創設を定める防衛財源確保法が成立した。同資金への2023年度の繰り入れは約1・5兆円となっており、実質的な防衛予算増である。

 そもそも、岸田首相が掲げる「GDP比2%」という防衛支出の規模は、日本が連携する西側諸国が加盟する北大西洋条約機構(NATO)が2006年に定めた長期目標と同水準である。西側諸国の要請に適合する目的で国家予算の枠組みを決定することはいかがなものか。

 敵基地攻撃能力の保有を含めた「防衛費2倍化計画」は、周辺国家との緊張・対立の深化と軍拡競争を招き、「新たな戦前」の幕開けとなる恐れがある。

後回しにされ続ける社会保障

 防衛費と競合関係にある社会保障費の枠組みは、高齢化に伴う自然増分の5200億円(約1・5%)増にとどまった。コロナ禍や歴史的物価高により国民が苦境にあえぐ中で、「大砲」を優先し続ける政府の方針は理解しがたい。

 厚労省は、主要事項として保健医療情報拡充システム開発事業(4・6億円)、医療機関におけるサイバーセキュリティ確保事業(3・5億円)、電子処方箋の有効活用のための環境整備事業(2・2億円)、診療報酬改定DX(5・1億円+事項要求)、介護関連データ利活用に係る基盤構築事業(25億円)などの、医療DX関連予算を要求した。マイナンバーカードと健康保険証の一体化や、全国医療情報プラットフォーム開発に係る歳出は金額を明らかにしない「事項要求」としている。

 デジタル庁による情報システムの整備・運用に関する経費(5670億円)、総務省によるマイナンバーカードの利便性・機能向上、環境整備等(624億円)を含め、マイナンバー、DXに関する予算は各省庁から広く要求された。「デジタル敗戦」からの挽回を図ろうとする岸田政権だが、マイナ保険証関連トラブルが一向に解決しないままDXを推し進めようとしている。

 防衛費や医療DX予算の大幅な拡大の一方で、診療報酬改定に向けた予算は要求されていない。骨太の方針2023の中で「トリプル改定において、物価高騰、賃金上昇、経営の状況、人材確保の必要性、患者・利用者負担・保険料負担への影響を踏まえ、必要な対応を行う」と記載されたにもかかわらず、概算要求では、診療報酬の改定について例年通り「事項要求」とされ、具体的な対応策は何一つ示されなかった。

 2022年10月に実施した後期高齢者の医療費窓口負担割合2割化に続き、後期高齢者の保険料上限引き上げの決定や、介護保険の各種利用者負担増の検討など、政府は徹底して社会保障費を抑えようとしている。

 現在協会が取り組んでいる「診療報酬の引き上げを求める署名」には、物価高騰等による影響を訴える声が多数寄せられている。国民の生活を保障するため、優先して拡大するべきは防衛費ではなく社会保障費だ。年末の予算案決定に向け、診療報酬の引き上げを含めた社会保障費の抜本的な拡充を強く求める。

(『東京保険医新聞』2023年10月25日号掲載)