[主張]財政審「建議」に抗議する

公開日 2023年12月11日

 財務省の財政制度等審議会財政制度分科会は11月20日、「令和6年度予算の編成等に関する建議」を取りまとめた。2024年度診療報酬改定について、財務省の機動的調査に基づき、診療所の経常利益は8・8%と高水準であるとし、「全産業やサービス産業平均の経常利益率(3・1~3・4%)と同程度となるよう、5・5%程度引き下げるべき」と主張した。診療報酬で「1%程度」のマイナス改定に相当する。

 現場従事者の処遇改善については、診療所を経営する医療法人に積み上がった利益剰余金の活用、強化される賃上げ税制の活用、その他賃上げ実績に応じた報酬上の加算措置を検討すべきとし、「過度な利益が生じている診療所の報酬単価を適正化することにより、国民の負担を軽減しつつ、同時に現場の従事者の処遇改善が可能」とした。

 診療報酬改定の具体案としては、診療所の「偏在」是正を目的とした「地域別単価の導入」、マイナ保険証利用時の患者負担の軽減、リフィル処方箋の利用実績を踏まえた調整措置としての「処方箋料の時限的引下げ」等が提案されている。「大きなリスクは共助、小さなリスクは自助」の原則の徹底を掲げ、「現在の保険給付の範囲の在り方を見直し、より小さなリスクにおける保険給付のウエイトを引き下げていくべき」とし、具体例として、OTC類似薬に関する薬剤の自己負担の見直しを提案している。

数字の切り取りによる恣意的な結論

 同分科会の出席者には大手企業や経済学者等の名前が並ぶ一方、医療関係者は1人もおらず、同建議が医療の実状を無視して作られているのは明らかである。

 コロナ下で一番落ち込みの激しかった2020年度を基準に比較するのは間違いであり、医療機関が過剰な収入を得ているという結論を導くための恣意的な数値の切り取りと言わねばならない。コロナ下における医療機関の経営実態は、診療科や新型コロナの検査・診療への関わり方等による差が大きく、一律に扱うべきではない。利益剰余金を取り崩しての医療従事者の賃上げを求めることは、多額の借入金を必要とする新規開業を躊躇させ、既存の医療機関でもストックの取り崩しを行うことは継続的な営業損失を発生させることになり、地域医療体制の弱体化に繋がる。

 同建議は「この間の診療所の報酬単価は、特殊要因(診療報酬の特例や不妊治療の保険適用の影響)を除いたベースでみても、+8・2%(年平均+2・7%)と、この間の物価上昇率+3%(年平均+1・0%)を上回るペースで継続的に増加している」としているが、資料には「診療報酬の特例や不妊治療の保険適用による影響は、一定の仮定をおいた推計で370円程度」と記されているのみで、どのような「仮定」が行われたのか、推計根拠は示されていない。

 日本医師会の松本吉郎会長は11月2日の記者会見で、日本医師会がTKC医業経営指標に基づき、独自に分析した診療所の経営状況(医業利益率)は、コロナ流行前の17~19年度は平均4・6%、20~22年度の直近3年間では平均5・0%、コロナ特例などを除くと平均3・3%程度と、「むしろコロナ流行前よりも若干悪化している可能性がある」と主張している。

 また、そもそも社会保障を担う公的な性質を持つ医療と、全産業やサービス産業とを並列して、経常利益率で比較すること自体が根本的な誤りである。

分断を煽る議論に乗らず正面からプラス改定要求を

 現役世代の負担増加や医療従事者の処遇改善、医師不足などの諸課題の原因を医療機関、特に診療所の報酬の高さに求め、対立を煽る論調が目立つのも同建議の特徴である。

 「支え手が減少する中での人材確保」の項では、勤務医不足の原因を開業医の過度な増加に求め、「医師の偏在対策として、開業医から病院勤務医へ人材移動が起これば、病院の勤務医不足は相当改善される旨の指摘もある」「診療所の報酬単価が高いことが、病院勤務医による開業を必要以上に促し、病院勤務医不足を招いている一因となっていると考えられる」としている。医療費抑制による医療提供体制の脆弱性や医師数不足等、現場の実態を無視した暴論である。

 20日の記者会見で増田寬也分科会長代理は、「足下で収益状況がよい診療所を守るのか、勤労者の手取りを守るのか、国民的な議論を」と発言している。しかし、防衛費や大阪万博、DX関連の予算等が際限なく膨張する一方で社会保障費は圧縮されている現実に触れず、各々の立場がパイを奪いあう関係であるかのように喧伝するのは欺瞞としか言いようがない。本来の問題を隠し、分断を図る政府の議論に乗ってはならない。

 協会は医療への無理解、社会保障の軽視に基づいた同建議に強く抗議するとともに、正面から診療報酬の大幅プラス改定と患者負担の軽減を求めていく。

(『東京保険医新聞』2023年12月5・15日号掲載)