医科歯科連携研究会 認知症・インプラントについて講演

公開日 2023年12月11日

 医科歯科連携委員会は11月19日、東京歯科協会および千葉協会と共催で「医科歯科連携研究会2023」を開催し、医師、歯科医師、コメディカル等、会場・Zoom合わせて88人が参加した。

 「認知症の診断と歯科インプラント治療」をテーマに、粟田主一氏(東京都健康長寿医療センター研究所 認知症未来社会創造センター長)、春日井昇平氏(総合南東北病院顎顔面インプラントセンター長)が講演した。


講師の粟田主一氏(写真左)と春日井昇平氏(写真右)       

 

認知症 共生社会の実現へ

 はじめに、粟田氏が「認知症の診断・治療と共生社会の実現に向けた取り組み」と題し、医学的知見や到達点と課題を解説した。

 認知症医療の根幹は、背景病理を踏まえた認知症疾患の診断・治療とともに、複雑化の進展を予防することにある。粟田氏は、代表的な認知症疾患である①アルツハイマー型認知症(AD)、②血管性認知症、③レビー小体型認知症、④前頭側頭型認知症の診断と治療について触れた。2023年9月にADの疾患修飾薬として薬事承認されたレカネマブについては、軽度認知障害(MCI)~早期ADを診断することができて、副作用のアミロイド関連画像異常(ARIA)等にも対応できるよう、認知症疾患医療センターを中心とした医療提供体制の整備が課題だと指摘した。

 また、東京都健康長寿医療センター研究所が2016年から高島平地区(板橋区)で実施している調査では、認知症の複雑化は独居など社会的孤立によって助長されることが明らかになった。

 2023年の通常国会で成立した認知症基本法には、共生社会というビジョンを実現するために、権利ベースのアプローチを通して認知症フレンドリー社会を創るという特徴がある。粟田氏は、持続可能な地域共生社会に向けて、都道府県と区市町村が地域の特性に応じた施策を分野横断的に実施できるように、政府は認知症推進基本計画を立案・遂行する必要があるとまとめた。

インプラントの良好な予後のために

 次に、春日井氏が「歯を失った場合の治療法:歯科インプラント治療について」と題し、インプラント治療のメリット・デメリットや、良好な予後を得るためのポイントを紹介した。

 インプラント治療の特徴として、①義歯が安定してしっかりと噛むことができる、②残存歯への負担がないというメリットがある。一方、①侵襲性が高い、②治療費が高額、③治療期間が長い、④周辺粘膜との結合が脆弱、⑤咬合の経時的変化に対応できない、⑥治療に失敗すると回復が難しい等のデメリットがある。

 春日井氏は、インプラント治療で長期に良好な予後を得る鍵として、①適切な検査・診断・治療計画、②インプラントの適切な埋入、③補綴物・インプラントへの適切な過重、④清掃可能な補綴物の装着、⑤口腔清掃の状態が良好、⑥適切なメンテナンス等を挙げた。

 特に、⑤⑥については、歯ブラシと歯間ブラシで口腔清掃を十分に行うとともに、定期的な歯科検診等でインプラント周囲炎を予防することが重要だ。特に認知症の患者に対しては、介護者等も口腔衛生に気を配る必要があると指摘した。

 最後には、「認知症の専門外来に患者を紹介するのはどのタイミングがよいか」「認知症の患者だけでなく家族や介護者等の権利も守られるべきだ」「インプラントは具体的にどうメンテナンスすればよいのか」等、活発な質疑があり、医科と歯科の双方で認識を深めることができた。

 
 粟田氏は、認知症かつ独居の場合、在宅継続率が顕著に低下するとし、社会的孤立が認知症の複雑化を助長すると述べた(11月19日、セミナールーム)

(『東京保険医新聞』2023年12月5・15日号掲載)