模擬指導に学ぶ指導の実際 指導対策講習会に169人――ロールプレイで疑似体験

公開日 2015年12月25日

協会審査対策委員会は10月24日、飯田橋レインボービルで指導対策講習会「模擬指導に学ぶ指導の実際」を開催し、会員・スタッフなど169人が参加した。「模擬指導」では、医療指導官、事務官、被指導者、立会人の役に協会審査対策委員、事務局が扮したほか、帯同弁護士の役は田辺幸雄弁護士(江東総合法律事務所)が演じ、好評を博した。

東京の指導の動向

はじめに、「指導のしくみと東京の動向」と題し、事務局から東京の指導の現状を報告した。

2015年度の東京都の指導計画においては、個別指導は病院8件、診療所90件が計画されている。

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個別指導の選定理由では、高点数による選定が2011年度は8件、2012年度は27件と一定程度の割合を占めていたが減少に転じ、2014年度、2015年度はゼロになっている。かわって増加傾向にあるのが「再指導」による選定で、2015年度は全体の8割以上を占めている。

これは近年個別指導が「再指導」に移行する割合が増加しているとともに、新規指導においても「再指導」が増えていることも関係している。

新規指導の結果では、「再指導」は2011年度は10件(結果全体の4%)だったものが年々増加し、2013年度は37件(11%)、2014年度は27件(12%)と1割を超えるようになったことを厚生局からの開示資料で示し、新規医療機関でもカルテ記載などの指導対策が重要になっていることを報告した。

実際の指導を再現

続いて模擬指導に入った。個別指導では、最初の20分程度かけて、前もって医療機関から提出させた『保険医療機関の概要』に基づいて、事務的な点検を行う。ここでは「非常勤の医師に増減がないか」「診療時間、休診日は変わってないか」「標榜科目に変更はないか」などがチェックされる。これらの変更を厚生局に届け出ていないと、届け出るよう注意される。

電子カルテを使用している医療機関の場合は、「運用管理規定が整備されているか」「運用管理規定に基づいて運用されているか」が点検される。「運用管理規定に基づいた運用」については、事務職員にもID・パスワードを個人ごとに設定されているかまで点検され、個人ごとに設定していないと改善を求められる。

一部負担金の徴収では、特定の患者や従業員に対して、負担金の徴収を免除・軽減していないかが重点的にチェックされ、従業員に免除していることがわかると厳しく改善を求められるので注意が必要だ。

カルテの点検

カルテの点検では、診断している病名の根拠となる記述がカルテにあるかを点検される。無かった場合には請求を通すためだけの病名(=保険病名)として改善が求められる。

さらに、最も重要なのが、特定疾患療養管理料などの算定に際して「指導内容の要点をカルテに記載する」とされている点数についてである。

例えば、特定疾患療養管理料を算定している日のカルテに「著変なし」しか書かれていない場合は、管理内容の記載とは言えず、算定要件を満たしていないと指摘される。

記載内容が全くない場合は自主返還を求められるので、「服薬」「運動」「栄養」等の指導内容を具体的に記載することを強調した。

また、管理内容がある程度書かれていても、毎回同じ内容だと「コピー&ペースト」、画一的と指摘されてしまうので、記載内容は患者の状態に応じて変化させる必要がある。

加えて、近年増えている指摘で「厚生労働大臣が定める特定疾患」が主病でないと算定できない特定疾患療養管理料や特定疾患処方管理加算・長期加算を、特定疾患が主病でない患者についても算定している、というものがある。これは普及している電子カルテのなかには、特定疾患の病名が診断されると、それが主病でなくても自動的に算定されてしまう事例があることによる。保険請求は通ってしまうかもしれないが、いざ指導に呼ばれると「全部自主返還せよ」と迫られるので、自動算定ではなく患者を選んで算定できるような設定にしておくことが望ましいと強調した。

弁護士帯同の経験

最後に帯同経験が豊富な田辺幸雄弁護士から、実際の指導の様子や、保険医への指導について法的にどう捉えるかについて解説した。

実際に指導を担当する厚生局等の医療指導官の基本的なスタンスは「カルテに記載のないことは存在しない」というものであり、実際に適切な診療が行われていても、カルテ記載が十分でないと算定要件の不備が指摘される。

しかし、それは法律的にいえばあくまで「過失」であり、行っていない診療行為について保険請求する「不正請求」とは明確に区別されるので、過度に心配する必要はないと話した。

また、ボイスレコーダーによる録音は必ず行ってほしい。事前に申し出て理由を聞かれた場合は「後日の勉強のため」「今後の診療に生かすため」と申し出れば必ず許可される。

そして、法律的には医療機関への指導は行政指導の一つなので、必ず行政手続法が適用される。同法32条では、行政指導はあくまで相手方の任意の協力によるものであること、行政指導に従わなかったことを理由として不利益な取扱いをしてはならないと定めている。 弁護士が帯同したケースでは、医療指導官から暴言や高圧的な発言が行われることはないと言ってよい。帯同を始めた頃は、弁護士は部外者扱いされたこともあったが、最近では帯同が自然なことになりつつある。 以前は、帯同した弁護士は後ろに座らされ、被指導者の隣に行こうとすると妨害されることもあったが、最近の帯同事例では隣席に座れるようになっている。これは大きな変化だが、日弁連から保険医への指導監査問題に関する意見書が発表されたことが良い影響を与えていると話した。

最後に、個別指導を本来の趣旨通り「任意の協力に基づいた指導」に近づけていくためにも、弁護士帯同・録音を積極的に行ってほしいと結び、閉会した。

※ 指導結果通知の見本は省略。

(『東京保険医新聞』2015年12月25日号掲載)