医科歯科研究会 歯周病治療でHbA1c改善「Hiroshima Study」に学ぶ

公開日 2013年12月25日

ポイントは「出前スクリーニング」

東京協会・東京歯科協会・千葉協会から67人が参加した 協会・医科歯科連携委員会は12月8日(日)、東京歯科協会、千葉協会と共催で「医科歯科連携研究会2013/医科歯科連携の実践から拡大へ」を開催し、医師、歯科医師、コメディカルを含め67人が参加した。

前半は広島県歯科医師会の宗永 泰一氏、九州大学・歯周病学分野の西村英紀教授がそれぞれ、2009年10月から2012年2月にかけて広島県歯科医師会と広島大学が実施した共同研究「Hiroshima Study」を紹介した。

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宗永氏からは共同研究実施にあたっての工夫として、歯科医が医院に出向いて歯周病の有無など患者の口腔状態をチェックし、歯科治療が必要な患者を歯科医へ紹介する「出前スクリーニング」(広島県歯科医師会方式)を解説。

これは、Hiroshima Studyに先駆けて実施した2つのパイロットスタディ(尾道市・廿日市市)の反省をふまえたものであり、「歯周病治療の必要な患者をだれがどのように選別するか」を重視したことがHiroshima Studyの最大のポイントだったと強調。

調査の結果、523人の糖尿病患者のうち歯周病を有する434人に対して歯科受診を促し、重度歯周病で抗菌剤を用いた歯科治療を行った群では、血糖値が有意に減少(HbA1cでJDS値0.39ポイント)することが明らかとなった旨、解説した。

食事・運動療法に加え歯周病管理が重要

一方の西村教授からは、「糖尿病のリスク因子としての歯周病、そのエビデンス」と題し、糖尿病患者の歯周病を改善することでHbA1cが改善するメカニズムをHiroshima Studyの調査内容にもふれながら詳説。

近年、生活環境の変容により増加する内臓脂肪型肥満と2型糖尿病のメカニズムに関連し、肥満は一種の炎症であり、成熟した脂肪組織から滲出される炎症マーカー「TNF―α」と「インターロイキン―6」が上昇することで、インスリン抵抗性を惹起すると説明。これは歯周病においても類似したメカニズムを発生させ、歯周病は炎症を介してインスリン作用を減弱させることを強調。

Hiroshima Studyをはじめ様々な検証を行った結果、もともと炎症マーカーが上昇している糖尿病患者については、とりわけ抗菌剤を併用した積極的な歯周病治療を行うことでHbA1cが統計的に有意に改善することが判明した。

それらを踏まえ、糖尿病管理の一環として、食事・運動療法に加えて歯周病を管理することが重要であると結んだ。

患者紹介ツール「医科歯科連携手帳」

後半は、船橋市開業で三咲内科クリニック院長の栗林伸一氏をはじめ、千葉協会を中心に県内で取り組んでいる「糖尿病・歯周病医科歯科手帳」の活用と連携の実際について、実例を盛り込んで講演し、その後のパネルディスカッションで議論を深めた。

会場からは「歯科を受診した患者のなかで、どのような所見・病態があれば糖尿病を疑って医科受診を促すべきか」、「Hiroshima Studyで登場した“出前スクリーニング”は実際には病院だけでなく一般開業医のクリニックにも出張したのか」などの質問が出され、さらに「近医で医科歯科連携に熱心な医師の名簿を保険協会で作成するなどして、医科と歯科で患者さんを紹介しやすい環境を作ってほしい」との積極的な要望も寄せられた。

終了後には、実際に千葉協会が作成した「糖尿病・歯周病医科歯科連携手帳」の記入方法などを千葉協会・事務局から希望者に解説。手帳の作成を担当した一人である千葉協会の三辺正人理事からは、「この手帳は医師と歯科医師をはじめ、医療者が使いやすい手帳を目指して作成した。今後は是非とも、医科から歯科へ患者を紹介する一つのツールとして活用していただきたい」との発言も寄せられた。

(『東京保険医新聞』2013年12月25日号掲載)