公開日 2013年06月08日
2013年6月8日
東京保険医協会 第3回理事会
日本国憲法96条は改憲手続きに関する規定である。衆参両院とも議員の3分の2以上の賛成により国会が改憲を発議し、改憲の承認には国民投票で過半数の賛成が必要と定めている。自民党安倍内閣が憲法9条改定に先行して、改憲手続きを定めた96条を改定しようとしていることについては異論が続出している。5月9日、衆院憲法審査会で主要7党が議論を戦わせたが、憲法96条先行改正の意見は、この日の議論で見る限り少数派であった。護憲派政党のみならず、自民党内部からも懸念が示され、様々な問題点が指摘された。
先進諸国の憲法改正手続きを見ると、改正の発議には殆どの国で国会の3分の2以上の賛成が必要なことを定めている。米国は両院の3分の2以上の賛成に加えて4分の3以上の州議会の賛成で改憲、ドイツは両院の3分の2以上の賛成で改憲、韓国では両院の3分の2に国民投票が加わる。イタリアは両院の過半数の賛成で発議できるが3ヵ月以上経過した後に、両院の3分の2以上の賛成を必要としており、国民投票を行う場合もある。フランスは両院の2分の1以上の賛成で発議できるが、両院合同会議で5分の3以上の賛成を必要とし、国民投票を行う場合もある。日本国憲法が「世界で最も改正しにくい」という安倍首相の意見は明らかに誤りである。
第2次世界大戦以後に行われた憲法改正の回数を見ると、ドイツ59回、フランス27回、イタリア16回、韓国9回、米国6回などとなっている。このことは、多くの国民が必要と考えるときには、憲法改正が可能であることを示している。
米国の法学者らが188カ国の憲法を比較検討した結果、65年も前に定められた日本国憲法は、世界で主流になっている人権条項の上位19項目までをすべて満たしており、画期的な憲法であったことを昨年報告した。日本国憲法がこれまで一度も改正されなかったのは、改正する必要がなかったのである。
そもそも憲法は法治国の最高法規である。憲法は時の政治権力が恣意的に国の基本方針や立法、司法、行政の在り方を変えることを防止して国民を守るものであり、ましてや政府に権力を付与するものではない。「改憲手続きを緩和する改憲」は憲法の力を弱め、国政を不安定にするものであり、世界的にもそのような改定を行った例はないと言われている。
いま国政選挙における著しい1票の格差は、全国各地の地裁において多数の違憲判決が出されるまでになっている。国会議員の構成は国民の意思と大きくかい離していることは誰の目にも明らかである。違法国会が憲法改正を論じることは、国を誤った方向に導く危険が大きすぎる。日本にとっていま最も必要なことは、国民の意思が正しく反映される政治の基礎を作ることである。改憲論議の前に、まず国政選挙制度を考えなければならないだろう。
以上