どうする安保法、憲法改正、生存権――「解決の可能性は憲法の中に」木村草太氏 大いに語る

公開日 2016年06月25日

協会・政策調査部は、5月31日に憲法学習会を開催した。首都大学東京の木村草太教授を招き「私たちは憲法とどう向き合うべきか? 安保法制、憲法改正、生存権」と題して講演。会員ら63人が参加した。

国家権力の三大失敗と立憲主義

木村草太氏写真

木村草太教授(首都大学東京) 立憲主義を読み解く上で、木村氏は「国家権力の三大失敗(無謀な戦争/人権侵害/独裁)」の歴史を紹介した。

特に“人権侵害”について、マキャベリの『君主論』やナチスのホロコーストを例に、弾圧される個人・集団は致命的なダメージを受ける一方で、他の集団から見れば無関係でいられるばかりか、“利益”になることさえある。そうした国家権力の乱用をいかに防止するかが立憲主義の始まりであると解説した。

憲法9条の理念と武力行使の例外

昨年成立した安全保障関連法(以下、安保法)との関係では、憲法9条が禁止する「武力行使の禁止」を説明。9条の第1項・2項は「軍編成権の否定」「戦力の不保持」「交戦権の否定」など、国際紛争の解決だけでなく武力行使一般を禁止していると解釈するのが一般的だが、その例外として憲法13条をあげた。

13条は政府に対して、国内の安全(国民の生命・自由・幸福追求の権利)を保護する義務を課しており、“個別的”自衛権や自衛隊の活動はこの目的を達するための必要最小限度の範囲で許容されるとの解釈を紹介。しかし、集団的自衛権の行使や国連軍参加まで合憲とするものではなく、他国防衛を許容した条文も憲法にないことを強調した。

イラク戦争の反省と安保法制

さらに昨年、安保法案の公聴会で「憲法9条違反である以前に、漠然不明確ゆえに違憲」と述べたことにふれ、同法は武力行使の判断基準が曖昧・不明瞭で、政府に武力行使を白紙委任するものであり、“法による支配が危機に瀕している”と警鐘を鳴らした。また、2003年のイラク戦争では大量破壊兵器は発見されず、航空自衛隊が多国籍軍の武装兵をバグダットに空輸した活動は名古屋高裁による「違憲」判決が確定し、わずか4ページの外務省の検証報告でさえ、当時の誤った判断を「厳粛に受け止める必要がある」としたが、現政府には、この反省が全くないことも指摘した。

一方、あまり報道されていないが、安保法には、「武力攻撃には国会の例外なき事前承認が必要とする」など、9項目の“附帯決議”がある。これは、安倍内閣も決議の趣旨を尊重し適切に対処する旨を閣議決定したものだ。

安保法は成立したものの、今後の法運用を厳しく監視し、政府与党による権力乱用を阻止するために、附帯決議の内容を広く共有して、今後の運動の武器とすることが重要ではないか、とも語った。

憲法学習会の様子

国民主権の原理として、国会や政府、裁判所は国民から負託された権限しか行使できない。

例えば、憲法73条では内閣に行政権・外交権を負託している。武力行使に至らない自衛隊の後方支援や国連PKO活動は、この“外交権”に含まれるが、他国の主権を一方的に制圧して実力行使を行う“軍事権”までは付託していない。

ところが、集団的自衛権の行使や国連軍への参加は、この“軍事権”に含まれるのだ。

木村氏は、国家は憲法にもとづき法律を制定し、誠実に執行することが定められているが、そもそも憲法が国家に付託していない“軍事権”を行使できるとした現政権の姿勢は、およそ憲法無視、国民無視といわざるを得ない、と批判した。

沖縄県の基地問題と憲法95条

参加者との質疑で、憲法9条の平和理念をいっそう高める立場からの憲法改正論議について問われた木村氏は、沖縄の基地問題と地方自治を保障する憲法92・95条を紹介し、安易な改正議論の前に、今の憲法をしっかり読み解くことが先決だと回答した。

沖縄の基地問題も、時の政権の閣議決定のみで米軍基地の移設先を決定したり、沖縄の自治権を侵害することを現行憲法は許容していない。諸問題を改善したいと思ったとき、私たちが未だ発掘に至っていない“解決の可能性”が現行憲法の条文の中にこそあるのではないか、と結んだ。

(『東京保険医新聞』2016年6月25日号掲載)