救急医療シンポ6 地域包括ケアと東京の救急医療 新しい救急体制を模索

公開日 2015年08月25日

協会病院・有床診部は7月25日、第6回目となる救急医療シンポジウム「地域包括ケアと東京の救急医療は両立するか」を開催した。

シンポジストは①有賀徹(昭和大院長)、②八木良次(都福祉保健局医療政策部救急災害医療課長)、③新藤博(東京消防庁救急医務課長)、④石井暎禧(石心会理事長)の4氏。当日は51人が参加し、救急医療の現状とこれからの展望について活発に意見交換した。

注※「東京ルール」
 2009年8月運用開始。中等症以下の患者のうち救急隊による医療機関選定において、5カ所の救急医療機関に受け入れ要請を行ったにもかかわらず、受け入れ医療機関が決まらない場合(又は連絡開始から概ね20分以上経過した場合)、救急隊は「地域救急医療センター」に調整を依頼する。

報告①「病床再編成・地域包括ケア構想と東京救急ルールの行方」 有賀 徹 先生

有賀 徹先生

有賀先生は「資源が限られているなかで、それをどのように活かし分配していくかという問題は、地域包括ケアシステムでも救急の現場でも同じ考えが根底にある」と指摘。総力戦を考える際に、「地域のなかで救急患者を診るということも考えていかなければならない」として、東京都医師会が葛飾区、八王子市、町田市で実施している病院救急車を活用した救急システムのモデル事業を紹介。救急を急性期だけで考えるのではなく、その地域の医療関係者全員で考え、ルールづくりを行っていく必要があると提案した。

報告②「東京都の取り組みと救急医療の現状」 八木 良次 氏

八木 良次氏

八木氏は東京の救急件数や今後の人口推移を示しながら、救急体制の充実や適正利用の必要性を訴えた。

「現在、85%は二次医療圏域内での受け入れができているが、さらに受け入れを促進させるべく、救急受入ベッド確保のための費用を助成する休日夜間診療事業について、医療安全や医療連携の取り組みによって加算を設けて充実を図っている」と都の施策を紹介した。

また、今年度からは開放性骨折患者の受け入れ支援事業を開始した。今年6月までに20件発生したが、5件は受け入れ指定病院(帝京大病院)へ紹介する前に受け入れ先が決まっており、早くも効果が表れている。

地域の病床機能再編を目指す「地域医療構想」については「まだ検討が始まったばかりだ。病床機能報告の結果分析や各地域からの意見聴取の場を設けながら進めていきたい」と語った。

報告③「救急活動の現状と東京消防庁救急相談センターの取り組み」 新藤 博 氏

新藤 博氏

新藤氏は、主に高齢者の救急搬送について問題提起した。去年から東京の救急件数は8,000件増えたが、うち9割は75歳以上だった。施設入所高齢者の救急は、夜間には医療職不在で患者の情報収集に時間がかかる実態を紹介。「普段の医療的ケアが無いために救急車を当てにする特養もある」と語り、協力病院との日常的な連携が施設からの救急を少なくするカギだと強調した。

今後、東京消防庁救急相談センター(♯7119)の利用を促す高齢者向け広報ステッカーを全ての高齢者(130万人)に配る予定だ。相談が寄せられれば救急車出動要否を判断できるため、不要な出動を減らすことができる。センターの更なる活用策を考えていきたい、と述べた。

報告④「救急医療と各病院の位置づけ」 石井 暎禧 先生

石井 暎禧先生

川崎市では救急を積極的に受け入れる病院と、あまり受けていない病院に二極化している。石井先生は受け入れを断る理由を「満床ということもあるが、病気の構造が変わり、交通事故中心の救急医療から命にかかわる脳や心臓といった即時対応しなければならない医療に変化してきている」と分析。救急に取り組むという心構えが受け入れを断らないシステムづくりにつながったと経験を紹介した。

石心会では病院救急室のなかにベッドを置き、そこで朝まで診るか、あるいは夜中でも他の病院にお願いできる状態なら病院の救急車で搬送するというシステムを作ったところ、非常にスムーズに受け入れられるようになったという。院内に無理をさせないシステムを構築する必要性を訴えた。

(『東京保険医新聞』2015年8月25日号掲載)