九州電力薩摩川内原発に関する原子力規制委員会の審査決定に抗議し、その撤回を求める

公開日 2014年09月17日

2014年9月17日
東京保険医協会
公害環境対策部長 赤羽根 巖

 

 福島第一原発は事故後3年を経ても汚染水問題さえ解決できず、多くの災いと課題を現在と未来に拡大させている。原子力災害をコントロールする技術を確立させる目途さえつかない中で、9月10日、原子力規制委員会は九州電力薩摩川内原発1、2号機(以下:川内原発)の再稼動につながる審査決定をした。われわれは国民の命と健康を守る医師の立場から、この決定に抗議し、その撤回を求める。そして政府には、安全、安心に暮らしたいと望む国民と地元住民の声に応えて、川内原発の再稼動を行わないよう要求するものである。

 そもそも、この新規制基準による審査は、この間、専門家や住民から指摘された批判に答えるものになっていない。まず、巨大カルデラが連続して存在する地域で、火山の危険性を軽視していることだ。原子力規制委員会には火山の専門家がいないにもかかわらず、巨大噴火が起こる可能性は「十分小さい」と主張し、また、九州電力が自ら監視し、「巨大噴火の可能性あり」と判断すれば原発を停止し核燃料を搬出するという。しかし、火山噴火予知連会長の藤井敏嗣・東大名誉教授は「超巨大噴火を予知することは、今の火山学では無理です」と、予測不能性を断言している。仮に九州電力が噴火を予知できたとしても、稼働中の原子炉を止め、噴火までの残された時間内に核燃料を安全に「格納」「運搬」「保管」することは可能なのか。可能ならその具体的手立ては何なのか等々まったく触れられていない。

 つぎに重大なのは、自治体の防災計画が採用されていないことだ。住民の「安全」を保障できなければ、誰のための「規制基準」なのか。米国では住民の被ばくを避ける対策が規制の対象になっており、規制委員会の認可を受けない限り、原発を運転できない。「世界最高水準」を目指すなら、防災計画は必須である。本年5月の大飯原発判決でも、最低250km圏内に深刻な影響があると述べているように、今回の審査をもって再稼働の可否を判断することは不適切である。

 そもそも規制委員会の田中俊一委員長がいうように新規制基準は「世界最高レベルの水準」なのか。EU(欧州連合)では、核燃料溶融時の対応設備、格納容器の強度、電源系統の独立性などの基準があり、実施されている。日本の今回の「審査書」にはこれらの基準がない。欧州の加圧水型原子炉では、炉心溶融時にも核燃料を受け止めて、格納容器内に留める「コアキャッチャー」という設備を備えなければならない。日本の原子炉にはこの設備がない。また溶融核燃料を受け止めたコアキャッチャーを格納容器ごと長期間冷却し続ける「格納容器熱除去装置」も義務付けられているが、日本の原子炉にはこの設備がない。さらに、大型旅客機の衝突にも耐えられるように、二重構造の格納容器が義務付けられているが、日本にはこの規則もない。水素濃度を低減する設備や可搬式の分析装置などを整備する方針を示しただけでは安全性の検証が終わったことにはならない。

 もともと新規制基準は、既存の原発を、可能な範囲の手直しで稼働するための強化策に過ぎず、根本的な構造的欠陥を修正するものではないのだ。「世界最高レベルの水準」など、どこにもないことは明白である。

 2011年3月以降、日本国民は原発なしでも電力が賄えることを証明してきたのであり、2つの原発裁判(5月の福井地裁「大飯原発3、4号機運転差し止め判決」、8月の福島地裁「原発事故避難者自殺への損害賠償命令判決」)は「原発と人類は共存できないこと」を明らかにした。原発再稼動を強行する根拠は、もはや原発利益共同体の利権を守ること以外には見当たらないのである。

 よって、われわれは今回の原子力規制委員会の審査決定に抗議し、その撤回を求めるとともに、政府に対し、川内原発の再稼動を行わないよう要求するものである。

以上

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