軽症有料化は真に緊急を要する傷病者を見逃す――救急出動の有料化は検討中止を!

公開日 2015年05月18日

2015年5月18日

財政制度分科会長 吉川  洋 殿
財務大臣     麻生 太郎 殿

東京保険医協会
病院・有床診部長 細田 悟

 

 財政制度等審議会・財政制度分科会は、5月11日の資料で軽症者に対する救急出動の有料化を提案した。その理由は、近年の救急出動件数の増加を受け「現状を放置すれば、真に緊急を要する傷病者への対応が遅れ、救命に影響がでかねない」ためだとしているが、はたして「救急出動の有料化」は、その目的の達成のために有効な手段であろうか?

1) まず、軽症者の線引きが非常に困難であるという事実がある。東京都では東京消防庁が救急相談センター(#7119)に取り組んでいる。平成25年の救急相談89,617件のうち、医師助言者等をふまえても、救急隊が出動した事案が12,813件(14.9%)であった。そのうち、救急搬送先で軽症とトリアージされた事案は7,919件(61.8%)であった。医師の助言を経ても軽症者をトリアージすることは、極めて困難であるのだから、一般市民、国民に軽症かどうかの判断を担わせるような有料化の制度は実施する意味がない。

2) 大重賢治・川上ちひろ・栃久保修らによる「救急車有料化に関する質問票調査(第2報)-仮想市場を用いた検討」(2005年8月)によれば、有料化による救急車利用の抑制効果は、本人が軽症の状況では、1万円以下の金額ではみられず、2万円以上の金額でみられたという。しかし、年金生活者など限られた収入で生活されている多くの高齢者では、2万円以上自己負担を求められたら、緊急を要する場合であったとしても、利用をあきらめてしまうなど、真に必要な救急搬送が抑制されてしまう恐れは非常に高いと考えられる。

3) 東京都の場合、救急告示医療機関は平成10年では、411医療機関であったものが、平成25年には324医療機関と約2割減少している。むしろこのことが、増加し続けている救急搬送件数の問題に拍車をかけているのであり、受け入れ側の救急医療機関が診療を維持できるように手当していくことが急務といえる。救急医療に対する診療報酬の増額や、自治体からの助成金の増額が求められる。

4) 東京都では「救急東京ルール」というシステムがはじまり、2次医療圏内で、2次救急をカバーしようという機運が高まっている。このような2次救急医療のシステムの充実、医療連携、医療機関の役割分担が、この問題の解決に役立つと考えられる。

5) 現在、宮崎県日向市、大分県、愛知県の救急現場で実施されている「救急車画像送信システム」がある。これは、救急車で搬送される患者の画像をリアルタイムで搬送先の救急病院へ送信し、医師らが、あらかじめ救急患者の状況を把握し治療に役立てようとするシステムである。元々、この取り組みでは、軽症傷病者の搬送を減らそうという目的はなかったのだが、結果的には、かなりの割合の軽症傷病者の搬送が減少しているというデータがある。これは、一般利用者に対する救急医療の教育効果が表れた一例と考えられる。有料化よりも一般市民への教育が、軽症傷病者の利用減少につながる良い例である。

 以上の理由により「救急出動の有料化」は、軽症傷病者の減少には効果的ではなく、むしろ、真に緊急を要する傷病者の受診を抑制する恐れが大きく、救命を妨げる手段となってしまうので、検討を中止すべきである。

以上

軽症有料化は真に緊急を要する傷病者を見逃す――救急出動の有料化は検討中止を![PDF:100KB]