公開日 2016年02月14日
2016年2月14日
東京保険医協会 第11回 理事会
2016年2月10日、中央社会保険医療協議会は今次改定診療報酬を答申した。厚生労働大臣が本体部分プラス0.49%(約500億円)を「大きな成果」と語るも、基本診療料の引き上げは行われず、薬価・材料価格▲1.33%(約1300億円)とし、全体で公称▲0.84%となる。しかし「医薬品価格の適正化(▲500億円)」など6項目でさらに約610億円を削減する方針のため、実質最大▲1.31%となる。前回も消費税補てん分を除くとマイナス改定だったため実質2回連続のマイナス改定だ。
「入院から在宅へ」の方針変えず――在宅復帰率、重症患者割合の引き上げの影響は
入院では、ことさらに在宅復帰、退院支援を促す加算や要件が新設・厳格化された。一般病棟7対1入院料では、「自宅等への退院」や「重症度、医療・介護必要度」の患者割合の要件が引き上げられる。有床診療所にも「在宅復帰機能強化加算」が設けられるなど、総覧してこの間の「入院から在宅へ」の方針に変わりはない。
窮地に立たされる「療養病床」――都内の25対1看護4,000床を守れ
今回、療養病棟入院基本料2(25対1看護配置)に医療区分2・3の患者割合の要件が新設された。医療法による看護配置の経過措置が2018年3月末までとなっているが、都内ではおよそ4,000床が現に地域医療を担っている。「介護療養病床」や「地域医療構想」の議論とあわせて、地域に必要な療養病床を守るために、国や東京都への働きかけを強めていかなければならない。
最大の混乱は「在宅医療」――不合理改善はされず、点数引き上げるもさらに細分化
「在宅専門診療所」や「在宅緩和ケア充実診療所・病院加算」の区分新設など、在宅での看取りをさらに進めたい国の姿勢が随所に見られる。最大の混乱は「医学総合管理料」等だ。患者の重症度や居場所に加え、従来の同一建物居住者から新たに「単一建物診療患者」と改変し、同じ建物内で計画的な管理を行う患者数(1人、2~9人、10人以上)によって点数を分ける。2人目以降の患者への点数は若干引き上げたが、看取り実績などの不合理な要件も撤廃されず、献身的に在宅を行う大多数の医療機関にとって混乱しかもたらさない。
国が押し付ける「かかりつけ医機能」――認知症、小児患者にも拡大
外来では地域包括診療料・加算をベースに「認知症患者への主治医機能」が新設された。国が描く地域包括ケアシステムの目玉だが、期待通りに届出施設が増えないため基準緩和も盛り込んだ。しかし、実施困難な算定要件や包括報酬である点など本質的な問題は解決しないばかりか、小児患者にまで同様の点数を新設した。これまで地域でかかりつけ医として尽力している医師でも、24時間の電話対応や、全ての通院医療機関・処方薬を患者から聴取し管理するなどの要件は、およそ医療現場の実態から乖離しており、机上の空論と言わざるを得ない。
さらに進める「医療から介護へ」――維持期リハビリは2018年3月末まで延長
要介護者等への維持期リハビリは、ひとまず2018年3月末まで延長された。しかし、前回導入された介護リハ提供実績のない場合の減算を強化するほか、新設する「目標設定等支援・管理料」と関連づけて、標準算定日数の3分の1を経過しても介護への移行の目処がたたない場合のさらなる減算を新設する。後者は一定期間の経過措置が設けられる見通しだが、ますます介護保険リハビリへの強引な誘導につながるのではと懸念が広がる。
診療報酬は「医療費削減」のツールで良いのか
小泉政権時、毎年2,200億円の社会保障費抑制や、2002~2006年度の3回連続マイナス改定で医療現場は大きな痛手を被った。安倍政権ではそれを上回る計画で、骨太方針2015では今後5年間で社会保障費を毎年3,000~5,000億円削減する目標だ。地域医療の充実を志す現場の思いとは別に、2025年に向けた「地域医療構想」や「地域包括ケアシステム」も根を辿れば同じである。本来、診療報酬は政策誘導や医療費削減のツールではなく、医療従事者の労働環境にも鑑み、医療機関が患者に十分な医療を提供するための評価であるべきではないか。
われわれは不合理な診療報酬の改善と基本診療料の引き上げを求めると同時に、地域の患者が安心して受診できるように、患者負担の大幅な軽減を求めるものである。
以上