介護予防・日常生活支援総合事業の円滑な実施を図るための指針(案)に関する意見

公開日 2015年03月20日

2015年3月20日

厚生労働省老健局振興課法令係 御中

東京保険医協会 政策調査部
部長 須田 昭夫

 
意見1:介護費用抑制のための規範的統合は不可能

該当箇所 市町村による効果的・効率的な事業実施および目標設定について(指針p.15~16、p.75)

最終的な目的が「費用の効率化」であるのに、利益相反のある関係者間で総合事業の意識共有を進めていくこと不当であり、自治体に地域の意識を共有する責任を押し付けることは国の責任を放棄することである。総合事業と予防給付の費用の伸び率を75歳以上の高齢者数の伸び率程度に抑制することを促すべきではない。

意見2:チェックリスト濫用により要介護認定申請権侵害をしないこと

該当箇所 介護予防・生活支援サービス事業の対象者について(指針p.13及びp.58)

「明らかに要介護認定が必要な場合には要介護認定申請につなげる(p.59)」としているが、窓口では介護に関する資格や知識を持たない職員が対応にあたることを認めており、このような職員が「明らかに要介護認定が必要な場合」を判断するのは困難である。たとえ介護支援専門員等の専門的な資格を有する職員を配置したとしても、住民に必要なサービスはチェックリストにより判断できるものではなく、要介護認定申請後に作成される「主治医意見書」並みの情報をもとに、医学的な観点も含めて総合的に判断すべきである。チェックリストによる「仕分け」は対象者の要介護認定申請権を侵害しかねないことから、中止すること。

意見3:実情に合わない単価上限・利用料下限設定はやめるべき

該当箇所 介護予防・生活支援サービスの単価および利用者負担について(指針p.106~110)

指針案では国が定める予防給付と同じ額を上限として定め、介護給付の利用者負担割合以上の利用者負担を求めることとされているが、当該規定の下では利用者と地域の実情に応じたケアが困難となる場合が考えられる。また、関係者間の利益相反性を強め、地域包括ケアの実現を阻害するものであることから、削除すべきである。

意見4:利用者の介護必要度に応じたケアを確保すべき

該当箇所 介護予防ケアマネジメントについて(指針p.26~、p.75~)

新たに総合事業によるサービスを利用する要支援者等に対して多様なサービスの利用促進を図ることとされているが、多様なサービス利用後も現行の介護予防サービス相当の訪問介護・通所介護の利用を中止するものではないことを明記すること。特に訪問介護については「身体介護中心」のサービスが含まれるため、生活援助中心の「多様なサービス」への移行を促すべきではない。

またケアプランの在り方として目標達成後は住民主体の活動に参加できるようにすると記載されているが(p.85~92)、目標は「維持・改善すべき課題」を解決するものとされていることから、目標達成したとしても現状維持のために引き続き当該サービスを利用することは当然可能とすべきである。実際には自治体側の恣意的な判断により「目標」を達成したとして、いわゆる「卒業」を強要し、利用者に対して介護予防サービスから他のサービスへの移行を促している例が報告されている(第186回通常国会衆議院厚生労働委員会、平成26年4月25日山井和則。また第186回通常国会参議院厚生労働委員会、平成26年6月12日小池晃)。このような事例が蔓延することのないよう徹底するとともに、目標達成後に利用者の状態や経済事情を勘案した上で他に利用できるサービスや活動が存在しない場合には、目標を達成したとしても当該サービスを継続して利用することが可能とすべきである。

また、全体像として「総合事業では、…(中略)…要支援者等の状態等にあったふさわしいサービスが選択できるようにすることが重要である」とされているが、「要支援者等の状態等」の一つとして経済的状況によってサービスの選択肢が狭まることがあってはならない。利用者の心身の状態や居住形態による介護の必要性に応じてサービスを選択することが可能とすべきである。

意見5:生活保護介護扶助を生活扶助費にツケ回してはいけない

該当箇所 介護予防ケアマネジメントについて(指針p.26~)

指針案では「総合事業は、市場において提供されるサービスでは満たされないニーズに対応するものであることから、市場における民間サービス(総合事業の枠外のサービス)を積極的に活用していくことが重要である(p.27)」としているが、指針案の図表「生活支援・介護予防サービスの分類と活用例(p.30)」では総合事業と民間市場におけるサービスが併存する可能性が示されており、次のような問題が生じる。

今回、生活保護の介護扶助は、総合事業に係る利用者負担に対しても支給されることとされた。しかし、仮に居住自治体内に総合事業と類似した民間市場サービスが存在する場合に、介護予防ケアマネジメントや相談を受けた自治体職員のすすめで民間市場サービスを選択すれば、その費用は被保護者の生活扶助費から支払うこととされる恐れがある。このような取り扱いをしたために、介護扶助により保障されていた最低限度の生活を脅かすことは絶対にあってはならない。したがって介護予防ケアマネジメントに加えて、自治体窓口(介護保険課や福祉事務所)といった場面において、利用者の不利益になる案内を行わないことを徹底すること。

以上

介護予防・日常生活支援総合事業の円滑な実施を図るための指針(案) に関する意見 [PDF:186KB]