平成27年度介護報酬改定に伴う関係告示の一部改正等に関する意見

公開日 2015年03月11日

2015年3月11日

東京保険医協会 地域医療部
部長 森本 玄始

 
1.介護報酬の大幅な引き下げはやめ、引き上げること

今次介護報酬改定は、介護職員処遇改善加算などを差し引くとマイナス4.48%という過去例を見ない改定率であり、病院・診療所が行う訪問看護費などを除いて、軒並み引き下げとなった。特に各種「加算」の算定ができない事業所や、「事業所同一居住者」「同一建物」「送迎なし」などの各種「減算」の直撃を受ける事業所にとって、事業継続はもとより、事業所そのものの存続さえ不可能にするものだ。利用者が必要とする公的な介護サービスを保障し、介護サービスを提供する事業者を確保するために介護報酬を引き上げること。

2.世論をミスリードするような情報操作はしないこと

今回改定では、財務省が「事業所の収益差」や「特別養護老人ホームの内部留保」などについて、マスコミを利用し恣意的な情報を流した。特に「特養の内部留保」では、施設建設への国庫補助金等が施設の減価償却と併せて、「国庫補助金等特別積立金取崩額」が、毎年、収入として計上されていることを、あたかも現金収入のごとく“見せかけの収支差”として発表し、6%の報酬削減を主張したことは言語道断である。このような情報操作は厳に控えるとともに、事実に基づく情報を十分な説明とともに国民に伝えること。

3.介護サービス利用者の利用料を引き下げること

利用料負担から介護サービスの利用を控える者が後を絶たないこと、また、介護報酬引き上げが直接、利用料負担の引き上げに繋がる現行の仕組みを見直し、国庫負担によって、利用者負担割合の引き下げや定額負担とすることで、経済的理由により、利用者が介護サービスの利用を我慢するような事態を解消すること。

4.上限つきの現金給付ではなく、必要充足原則に則った制度とすること

区分支給限度基準額(以下、限度額)によって必要な介護給付が受けられず、必要な公的介護サービスを制限せざるを得ない状況がある。サービス費の給付限度額の仕組みを撤廃し、公共サービスは必要とする国民に不足なく提供されなければならない。この必要充足原則に則って、医療保険と同様に現物給付の仕組みとすること。

5.国庫による介護事業所従事者の処遇改善を図ること

キャリアパス要件である「キャリア段位制度」は未完成かつ複雑であり、人手と時間のかかるものである。職員不足に悩む事業所では到底対応できない仕組みを「介護職員処遇改善」などといって、算定要件に持ち込むのは本末転倒である。さらに看護師・事務職・接遇担当者など介護事業所従業員の半数は「処遇改善加算」の対象から外され、マイナス改定の直撃を受けることになる。よって、このような「加算」ではなく、全ての介護事業所で従業員の賃金水準を引き上げることができるように、国民の負担増につながらない国負担による支援を行うこと。

6.患者のQOL(生活の質=人間の尊厳)を支えるリハビリテーションを評価すること

今回改定では、リハビリテーションを「生活機能の維持・向上を目指すもの」と運営基準の基本方針に規定し、訪問リハでは「生活行為向上」、通所リハには「社会参加支援」などの加算を新設した。これは「心身機能の維持・回復」「活動」「参加」などにむけて「改善」が見込めるリハビリテーションを評価する一方で、心身機能の維持・回復には至らないものの、「拘縮」「疼痛」緩和などのために行うリハビリテーションを軽視するものといわざるを得ない。「改善」が見込めなくとも、患者の苦痛を軽減し、より良く生きたいという願いに応えられるように、「拘縮対策」「疼痛緩和」など患者のQOL(生活の質=人間の尊厳)を支えるために行うリハビリテーションを評価すること。

7.医療系介護報酬は、区分支給限度基準額の対象から外すこと

訪問看護、訪問リハビリテーション、通所リハビリテーションは、医学的な必要に応じて実施すべきであるが、限度額の範囲でしか介護保険給付を受けられない。これらのサービスや、限度額の対象外である居宅療養管理指導や介護老人保健施設、介護療養型医療施設における介護を除く部分は医療そのものであり、医療保険の窓口負担率を引き下げて、医療保険給付に戻すべきである。

少なくとも、限度額の対象に組み込まれた訪問看護、訪問リハビリテーション、通所リハビリテーションは、限度額の対象から除外すること。

8.国の責任で公的医療・介護サービスを確保すること

いわゆる“2025年問題”を口実に、高齢者が住みなれた地域で自分らしい暮らしを続けるためとして、国は地域包括ケアシステムの構築をうたっている。これは自己責任と住民同士の助け合いの仕組みをつくり、公的な医療・介護サービスから患者・利用者を切り捨てる政策である。そもそも“自助・互助・共助”は社会保障にはなり得ない。利用者の生活と権利、そして事業者・介護従事者を守るためにも国の責任で医療・介護の必要なサービスを確保すること。政府は今後5年間で防衛費に総額25兆円も使おうとしている。これらにメスを入れれば必要な財源は確保できる。

以上

平成27年度介護報酬改定に伴う関係告示の一部改正等に関する意見[PDF:236KB]