道理のない介護報酬の引き下げ決定に抗議する

公開日 2015年01月17日

政府は2014年6月に成立した「医療・介護総合法」に基づき、社会保障制度改悪の具体化を進めている。2015年に改定される介護報酬においても、マイナス2.27%という大幅引き下げが決定された。その内訳は、介護報酬の「適正化」によりマイナス4.48%、介護職員の処遇改善プラス1.65%、認知症・中重度ケアの推進プラス0.56%である。

ここで減額となりそうなのが施設サービスであり、マイナス改定は地域の介護事業所の存続を根本から揺るがすものだ。財務省と厚労省は、介護事業所の収支差や特別養護老人ホームの内部留保が過剰であることを介護報酬引き下げの理由に挙げている。しかし、大手・中小の事業所の区別なく収支差の平均を求めていること、特別養護老人ホームの内部留保が単なる帳簿上のものに過ぎず、実際に現金が積み上がっているわけではないことなど政府の主張には問題が多い。

協会は、1月17日、地域医療に不可欠な公的介護サービスを守り充実させるために、今回の介護報酬引き下げという暴挙に断固抗議し、その撤回を求め、介護報酬改善とそのための財源措置を要求する抗議文を安倍晋三内閣総理大臣、塩崎恭久厚労大臣に提出した。

道理のない介護報酬の引き下げ決定に抗議する

2015年1月17日
東京保険医協会
会長 拝殿 清名

 

政府は1月11日、2015年度介護報酬改定でマイナス2.27%という大幅引き下げを決定した。内容は介護報酬の「適正化」によりマイナス4.48%、介護職員の処遇改善プラス1.65%、認知症・中重度ケアの推進プラス0.56%というものだ。

低い介護報酬下で人材不足が深刻化し、経営難が介護現場を直撃しているなかで、さらに介護報酬全体が引き下げられれば、多くの事業所が存続の危機に陥るのは必至である。地域の介護提供体制を崩壊させかねない今回の決定は到底容認できるものではない。

政府は「介護職員処遇改善加算の拡充が確実に職員の処遇改善につながるよう、処遇改善加算の執行の厳格化を行う」としているが、ケアマネジャー、 看護師、生活相談員、事務員、調理師など、事業所において半数近くを占める「間接処遇職員」は対象にはならない。このため、一部職員の給与が上がったとしても、介護報酬全体が引き下がれば、事業所全体の賃金水準を引き下げざるを得なくなる。正職員の縮小や非正規職員の拡大に拍車がかかり、今以上の過密な業務を強いられて、介護サービスが質・量ともに低下するのは明らかである。

また、財務省や厚労省は、介護事業所の収支差や特別養護老人ホームの内部留保を介護報酬引き下げの理由にしてきた。しかし、利益を上げて株式配当をする大手の介護事業者(ニチイ学館111億円、メッセージ53億円、ベネッセ48億円:2013年3月決算での営業利益)などと、経営困難に直面している中小事業所を十把一からげにした平均値をもとに介護報酬を引き下げることは暴挙以外の何物でもない。

さらに特別養護老人ホームの会計処理は、施設建設などへ投入された国庫補助などが国庫補助金等特別積立金取崩額という減価償却費になって毎年計上され、収益がなくても見かけ上の「内部留保」が積み上がる仕組である。「自由に使える現金」が「内部留保」にあるわけではない。この1年で大企業の内部留保は15兆円近く増えて285兆円にまで膨れ上がっている。ところが安倍政権は、これにメスを入れないばかりか、法人税をさらに下げようとしている。そのような政府が、特別養護老人ホームの「見掛けの内部留保」を問題視して介護報酬を引き下げる道理はどこにもない。

われわれは医師の団体として、地域医療に不可欠な公的介護サービスを守り充実させるために、今回の介護報酬引き下げという暴挙に断固抗議し、その撤回を求める。そして、介護報酬改善とそのための財源措置を要求するものである。

以上

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