研修環境の整備を求める―第4次医療法改正から―

公開日 2000年11月25日

第4次医療法改正の大きな狙いのひとつに「卒後臨床研修の必修化」がある。そのポイントは卒後2年以上の臨床研修(歯科は1年)を義務づけるもので、診療所の開設者や病院の管理者になるためには、この研修の終了が必須である。

厚生省の方針として卒後研修の義務化が包括的に出てきたのは1987年の「国民医療総合対策本部報告」が最初だ。この報告は日本の医療・福祉について 効率性、営利性、老人医療の負担増、病床数規制などを盛り込んだ医療改革構想 の一環として発表されたもので、これからの医師に「医療における経済性」を学 ばせる、という意図があり、また保険医を含めて日本の医師の数をコントロールする狙いがあることも明白であった。

昨年(1999年)から今年にかけて相次いで出された文部省高等教育局医学教育課による「21世紀に向けた医師・歯科医師の育成体制の在り方について」や「医師の卒後臨床研修に関する協議会」などの意見を総合すると、医師数の10%削減を目指すために、入学定員を減らすとともに、国家試験を改革して医師数を減らすことが述べてある。医師になるための入り口と出口で厳しく数を絞り込むという狙いだ。一方、研修終了を評価する方法として本人、指導医、看護婦、臨床検査技師、患者等によって多角的に評価するとか、問題のある研修医については進路変更の指導を、など真新しい意見がでている。研修は済んだが、臨床医として不適格といわれる事態も発生しかねない。研修医の給与については、司法修習生の給与(月額25万円)を参考にすることを示唆している。

さて、いま研修医の置かれている現況はどうであろうか。偶々朝日新聞に相次いで研修医の記事が載っていたので引用させてもらう。同紙11月2日号には研修医の「残酷物語」と題して、突然死した研修医の長男を過労死だとして訴訟を起こした父親の記事が載っている。正直いって、ああ遂にここまで来たか、という思いだ。記事によると、この研修生は早朝から夜まで病院で働き、月6回の当直で、一睡もできないとこぼしていた、という。健保も労災も未加入だった。現在、卒後研修の指定病院は大学以外は、一般病床300床以上、年間入院患者数3000人以上となっており、地域の中小病院は指定されず、補助金もでない。

同じ日の朝日の記事には卒後研修病院の指定について、文部省・学術会議と厚生省の間に相当な意見の食い違いがあり、結局厚生省の主張する地域の中核病院は見送られた。

肝心の給与水準については、厚生省は医療保険を財源に、と考えているようだが、仮に司法修習生なみの月25万円とすると年間五百億円近くの費用が要ることになる。これには健保連の会長は注文を付けている。病院の受け入れ態勢はどうかというと、都内の有名私大などは、卒業生の倍の200人もの研修医を抱えている。将来の就職や研究への有利性のためといわれるが、廉価な労働力提供になっていることは否めない事実だ。

以上述べた諸事情から見ると、研修医の置かれる立場がいかに貧しく、弱く、無権利で、悲惨でさえあることが分かる。また、官庁の縄張りのために研修場所が限定されているが、大学や大病院以外も研修の場として選択されるべきである。

身分や生活を保証できない研修制度ならば、昔のインターン制度の二の舞であり、無理に導入すれば多くの問題が派生することになるだろう。

東京保険医新聞2000年11月25日号より