公開日 2001年02月25日
昨今は厳しい世相を反映して、内科医が多くの心身症の患者を診ている。実際、「どんな薬を使っても訴えがとれないので、スルピリドを使ったら症状が消失した」など、薬物療法だけで対応できるケースも多い。一方、小児科は薬よりもカウンセリングに重点をおくことから、手間がかかり、一般診療と別の診療が求められる。
小児の場合は言語化できない年齢であればなおさらに、心理的問題が身体症状化されやすいので、身体症状を訴えて、心身症の子どもたちが小児科外来を受診する。さらに不登校、虐待、引きこもり、16歳の事件などが大きな社会問題になって、小児科医にも「心の問題」への対応が迫られている。しかし児童精神医学や小児心身医学が、医学教育や卒後の小児科医や精神科医の研修の中に位置付けられることは少なく、大学にそのような研究室もない状況では、小児科医も戸惑ってしまう。小児科医対象の「子どもの心の相談」講習会に多くの開業小児科医が集まる所以である。
筆者は、勤務医時代に、複数の児童精神科施設で10年近く1~2週に1回のペースで外来診療に臨席させてもらい研修した。そこで、精神病領域の子どものどこまでを小児科医が診たらよいのか、子どもや親とのスタンスの取り方などを学ばせてもらったように思う。その後開業してみると、病院時代のスタイルで診療することの難しさを痛感している。開業小児科では、急性疾患の診療と健診・予防接種などの診療がほとんどであり、時間をかけた診療が必要な心身症の外来を置くことが難しい。また臨床心理士を置くゆとりもない。「小児特定疾患外来診療料」「心身医学療法料」などの保険点数があり、前者で「月1回、1年間に限る」(710点)、後者で「初診30分以上」(90点)などがある。しかしこの保険点数は、医療費負担があるときは、子育て真っ最中で経済的にゆとりのない世代の保護者から取りにくいし、時間もかかるので、とっても採算がとりにくい診療になっている。
それでも小児科医が、子どもの心の問題に取り組めるようにするには、1.厚生省が子育て支援事業の一環として、児童精神科・小児心身医療の研修を小児科医の仕事として位置付け、参加手当を払っても研修会を用意すること、2.児童精神科を研修したい小児科医には、児童精神科の専門病院に指導医を置いて、研修用のセクションを設けること、3.心の問題を抱えた子どもを診療する小児科医が相談でき、紹介できるように児童精神科の専門施設に病診連携のセクションを設けることが必要である。
さらに、子どもの心の問題は、人生相談的な対応や環境改善などで解決する場合も多いので、児童相談所、教育研究所、都の母子相談員などのケースワーカーや心理相談員などの対応が必要であり、これらの施設の拡充が不可欠である。また小児科医自身、子どもを取り巻く専門職とのネットワークづくりも求められている。
東京保険医新聞2001年2月25日号より