外形標準課税導入は反対である

公開日 2001年03月25日

医療機関を巡る税制に関して、最近2つの気になる動向がある。ひとつは「損税」の拡大であり、もうひとつは事業税の新たな提案である。

昨年6月首相の諮問機関である政府税制調査会は、21世紀初めの日本における税制の方向を展望したという「わが国の税制の現状と課題~21世紀に向けた国民の参加と選択」と題した「中期答申」を発表した。

その基本線は、税収だけで歳入歳出ギャップの改善は困難とし、そこから「公的サービスの見直しか、租税の負担増かまたはその組み合わせか」とあたかもこの3者しか改善の道がないかのように国民に迫った。そして、「公正で活力ある社会」を築くためには課税ベースを広くして、「公平・中立・簡素」の税体系が必要、と何度も強調していた。

課税ベースの拡大は、個人課税としての消費税率引き上げと、簡易課税や免税の改廃である。もうひとつは法人事業税の「外形標準」課税である。

答申では消費税を「わが国の税財政にとってますます重要な役割を果たすべき基幹税」と明記するとともに、現行の消費税負担率がヨーロッパ諸国に比べ3分の1程度、とその低さを強調している。また宮沢財務大臣は今国会で消費税増税が必要と発言した。財界などからも増税の声が大きくなっており、参議院選挙の結果次第では、重大な問題となるだろう。

消費税の増税は、国民生活を直撃するばかりではなく、医療機関における「損税」を耐えられないほどに増大させ、患者の受診抑制の拡大と相俟って医療経営を圧迫することは目に見えている。

事業税における「外形標準」の導入は最近でてきたものではなく、相当以前から自主財源の拡充を求める自治体などから出されていたものである。東京都が都市銀行を対象に導入したことを嚆矢にして、「中期答申」はこれを基本方針に「早期導入を検討」として載せた。また昨年11月、自治省が具体案を示す一方で、東京都の税制調査会が出した答申においても法人事業税の外形標準化について提案している。

都の税調答申によると、都内の全法人の6割が欠損法人であり、法人事業税を負担していない現状にある。そのため政府税調に併せて今後全業種に外形標準課税の導入を図っていく必要がある、としている。

またこの中では、所得標準と外形標準を2分の1ずつ併用し、所得に係る税率を現行の2分の1に引き下げるとともに、残りの部分について、法人の事業活動の規模を測る「事業規模額」による課税方式を導入する自治省案を評価している。この自治省案は、形としては増税にはならないが、いったん導入されれば増税にすすむことは、消費税で経験したことである。

法人事業税の外形標準課税は、儲けの少ない事業体ほど負担が大きくなり、中小企業にとっては存亡に関わるものである。医療法人も例外ではない。医療機関は労働集約型の産業ともいうべきもので、人件費、賃借料などは絶対に減らせない。消費税で苦しめられているうえ、さらに事業税が課税されることになり、大変な負担増になる。

加えて、現在は法人に対する事業税が課題にあがっているが、政府の中期答申でも「個人の事業については、事業税の性格に照らして考えれば、本来のあり方としては、法人事業税と同様に扱うべきであり」と述べており、医療機関などの個人事業に対しても外形標準を導入する方向を示唆している。

また「事業税における社会保険診療報酬に係る課税の特例措置については、累次の当調査会の答申などにおいて示されているとおり、税負担の公平を図る観点から、その見直しを検討することが必要です」と述べている。医療機関にとっては、消費税の税率アップと事業税の外形標準化によって、大変な事態に至ることになろう。

これらの税制「改正」が具体的に動き出すのは、参議院選挙後になる。この税制も含めて、経済政策・国家財政のあり方に国民の意思がどう示されるのか、その結果は21世紀の日本にとって重大な意味を持っている。

東京保険医新聞2001年3月25日号より