小泉首相は医療現場の認識を

公開日 2001年07月05日

先日の都議選で圧勝した自民党・与党は勢いを駆ってますます政策実行を推し進めるだろう。特に小泉首相は医療改革に並々ならぬ意欲を燃やしている。それは97年、氏が厚生大臣の時に出した「21世紀の医療保険制度・厚生省案」の発表の時の主役だったことでも明らかだ。

この案の特徴はふたつの点にあった。ひとつは患者への負担増と給付の制限で、もう一つは政管健保への国庫補助廃止などが示す国の責任の後退だった。しかし、この案は当時の自社さ3党による与党医療保険制度改革協議会(与党協)によって強く批判され、改めて与党協による次のような改革案が出された。

このときの原案は(一)高齢者対象の独立した保険制度を創設(運営主体を市町村か都道府県とする地域保険に)。高齢者全員から保険料を徴収、窓口負担を定額から定率(一割程度)に、(二)大病院外来は原則紹介制、(三)本人3割・大病院外来5割の負担増は当面先送り、といった内容である。今回の医療改革の骨子はこのときに出来た。

いま、手許にある資料(5月30日に行われた参議院予算委員会の記録)を読むと、小泉首相の医療の現場に対する認識の程が理解できるようだ。小池参議院議員とのディベイトのなかで次のように言っている。「…医療の無駄を徹底的に省かなきゃいけない。3日分の薬でいいものを10日分やったらムダでしょう。風邪薬をやって胃が悪くなったら今度は胃の薬をやるとか、他人にあげるくらい薬を出すとか、こういう薬の使い過ぎを直さなくてはいけない。…ちょっとした見立で分かるかもしれないのを何でも検査する。風邪なのに頭から足まで全部検査したら、これまた無駄じゃないか。お医者さんにとっては、患者が多ければ多いほど収入になるからいいでしょう」というやり取りなのである。なんだか意図的に書かれた新聞や週刊誌の記事をそのまま鵜呑みにしているのではないだろうか。もっと現場に対する認識を深めてもらいたい。

7月の参議院選後の医療改革の焦点は高齢者医療制度の改革である。今年中に具体案をまとめ、2002年明けの通常国会に関連法案を提案、2002年実施を予定している。高齢者裕福論がひとつの根拠とされているが、実体は果たしてどうなのか。1998年に厚生省が出した「国民生活基礎調査」や1996年の「年金白書」などによると、高齢者の7割以上が年間所得240万円未満、とりわけ女性の8割が160万円未満、年金受給者の約半数が月額5万円未満の基礎年金のみ、無年金が93万人いるという客観的事実がわかる。

小泉首相はその直截的発言と改革総論に好感と期待を持たれているようだが、各論の展開はこれからだ。医療改革については、現場にいるものにとっては、よく改革の本質を見極め、きたる参院選に対処する必要があるのではないだろうか。

東京保険医新聞2001年7月5日号より