小泉医療構造改革の中味

公開日 2001年07月25日

小泉内閣の高支持率が続き、「骨太方針」と称する「構造改革」が進められつつある。この「構造改革」の方向性を打ち出したのが、経済財政諮問会議が6月21日に答申した「今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針(以下:基本方針)」である。基本方針は6月26日閣議決定され、小泉内閣の正式方針になった。

「構造改革」の意味は明確だ。景気回復を図るために停滞する産業・商品を淘汰して生産性・需要の伸びが高い成長産業・商品=成長分野への労働や資本などの経済資源の流れを促進すること、その障害を取り除くことである。「基本方針」は、こうした「創造的破壊が経済成長の源泉である」と市場原理を賞賛し、特に不良債権処理を完了させる2~3年の「集中調整期間」の痛みはやむをえないと強調している。

この「痛み」に対してセーフティーネットの必要性にも触れているが、社会保障も「創造的破壊」の対象であり、とくに医療分野では、「株式会社の医療機関経営参入」や「保険者と医療機関の直接契約」、「公的保険給付範囲の制限」や「混合診療」等をあげ、「医療費総枠制」が提案されている。「基本方針」により構造改革された医療制度が、国民の生活不安や将来不安を解消するセーフティーネットとして機能するとはとても思えない。

小泉首相はこの骨太の方針により、医療福祉を中心に5百数10万人の雇用を新たに創出するというが、医療費総枠制の下で厳しい経営を強いられる業界に新たな雇用が生まれるだろうか。論理矛盾もはなはだしい。

「株式会社方式による経営」は、民間事業者の参入により、医療サービスの向上や患者の選択が広がるというが、実態は「金」のあるなしで医療の内容が決まってしまうことになる。この一例として米国が挙げられる。さらに、営利のために売上増を追求する誘因が強く働き、医療の効率化をもたらすはずが、逆に医療費膨張に歯止めが利かなくなっているのが現状だ。そのため、医療費抑制のために導入されたマネジドケアも、患者が必要とする医療と「保険会社が契約した医療機関」の供給するサービスのギャップの大きさから、反マネジドケア運動が勃発していて、いたって評判は悪い。

また、「公的医療保険の給付範囲が限定」され、「自由診療との併用」、「混合診療」が導入されると、患者の支払い能力によって医療内容の格差が進み、社会保障としての国民皆保険制度に風穴が開いてしまう。もはや医療機関は保険診療のみでは経営が成り立たなくなり、自由診療・混合診療で「しのぐ」ことになる。しかも生き延びるために、他の医療機関との熾烈な患者獲得競争を強いられることになる。

さらに「基本方針」が示している「医療費総枠制」は、医師として到底是認できるものではない。そもそも医療費は、個々の患者について医師が必要と判断して行う診療のための諸費用によって決まるべきものである。高齢者の人口が増加し、医療技術が進むなかで、量・質ともに医療内容の拡充が求められているにもかかわらず、低成長下の経済動向と連動させて、老人医療費の伸びを抑えこむというのは、老人一人ひとりが受ける医療水準を切り下げることに他ならない。

今年の3月に財政制度等審議会が行った世論調査では、「国の予算で役に立っていないもの」の第1位が公共事業で43%、第2位が軍事費で24%。「これらの予算を減らして欲しい」との回答が93%であった。このような声を反映させるための改革こそが国民の望んでいる改革である。

深刻化する経済の再生のためには、国民の生活不安・将来不安を解消し、GDPの6割を占める個人消費を活性化させることだ。そのためには、医療・福祉を切り捨てるのではなく、国民にとって必要な医療・福祉を維持し、拡大するためにこそ、この国の財政構造は抜本的に改革されなければならない。

東京保険医新聞2001年7月25日号より