保険医の生活と権利を守る東京保険医協会

狂牛病対策への不安

公開日 2001年11月05日

種の壁を越えた感染

狂牛病(BSE)の原因は異常プリオン(感染性タンパク)にあり、原則的には正常プリオンをもつすべての生物に感染する可能性があるといわれる。人間ではクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)が同じ脳疾患に当たるといわれるが、狂牛病から感染したものでは発病年齢が低く、運動異常が前景にあり痴呆の発症は比較的遅いことから、新型CJDとされた。1985年にイギリスで最初のBSEが確認されて以来、8年後の1993年に最初の新型CJDによる死亡例が報告され、1996年までに10例の死亡が報告されている。その間にBSEと確認された牛はイギリス全土で14万頭以上にのぼる。1990年にはペットの猫が感染死したことで、牛やヒトのみならず、猫、羊、鶏などへの種の壁を超えた感染が想定され衝撃を与えている。

農水省の対応

農水省はアメリカに遅れること7年目の1996年になって、はじめてイギリスからの肉骨粉輸入に対する禁止通達を出したが、同じBSEの発生していたEU諸国からの輸入は禁止していない。また牛への肉骨粉使用の禁止通達を各自治体に出したが、罰則はなかった。今回わが国で最初のBSEとされる北海道産の乳牛が生れたのは1996年である。その牛が2001年に至ってBSEを発病したのだから、ヒトへの感染例の潜伏期間から考えて2005年以降の発症可能性が高いことになる。しかし今回発生したBSEの確認ひとつをとっても、農水省の対応は2転3転し、国民の行政に対する不信と不安感を大きく煽るものであった。異常プリオンの多く含まれる危険部位の焼却処分も充分に進捗していないうえ、各自治体によって大きなバラツキがある。国は国民の健康を守るために、焼却費を全額負担してでも対策を進めるべきだ。また、食用として流通している牛に関しては、追跡調査が可能なようにEU並みの検査体制を整えるべきだ。

牛関連商品の安全性

牛の危険部位が広く日常の加工食品に含まれてしまっているという不安も消えない。牛エキスを使ったスープ類、ハンバーグなどの冷凍食品、ペットフードなどがそれである。しかし食品類に限らず、化粧品・医薬品・歯科材料などへの混入可能性も大きな問題である。こうした牛関連製品への不安を取り除くために、農水省のみならず厚労省も十分な情報開示と説明をする義務がある。とりわけ厚労省は、かつての薬害エイズ事件で示された生産者(製薬メーカー)よりの姿勢を再び示すことがあってはならない。厚労省は10月18日以降、いわゆる全頭検査の実施を始めたが、一次検査結果を公表するかどうかは自治体によって対応が異なっている。

第二の薬害エイズとしないために

1985年に最初のBSEがイギリスで発生したとき、アメリカでは硬膜移植によるCJD感染死亡例が出ている。日本でも1998年3月時点で移植硬膜からの感染例が54例確認され、いわゆるヤコブ病訴訟が起されていることは周知のとおりである。また角膜移植による感染例も確認されている。厚生省は、訴訟の起きた翌年の1997年になって移植用ヒト硬膜の使用を禁止したが、危険な硬膜の使用を漫然と放置した行政側の不作為を争点とする訴訟の構造に、薬害エイズ事件と変わるところは基本的にない。今回の狂牛病対策に同じ過ちがあってはならないであろう。

いずれにせよ、的確で速やかな情報開示と、納得のいく安全対策を国は示す必要がある。拙速な「安全宣言」よりも、安心のできる危機管理の方策を求めたい。

東京保険医新聞2001年11月5日号より