医療費総枠規制の問題点

公開日 2001年12月15日

「医療制度改革試案」が9月25日に発表された。「試案」は「少子高齢社会に対応した医療制度の実現に向けて、広く国民の論議に供するため、厚生労働省がまとめたものであり、2002年度予算編成までに成案作成、次期通常国会に提出。実施は2002年10月費目指す」としている。この試案の根幹を貫いているものは、来年度実施は見送られたものの、医療費総マルメ制ともいえる医療費(当面は老人医療費)の総枠規制にあることは明らかである。

すでに、老人以外の外来患者では運動療法指導管理料(対象は高血圧症、商脂血症、糖尿病の患者)、老人の外来患者は、老人慢性疾患外来総合診療料、在宅では寝たきり老人在宅総合診療料などが導入されている。しかし、検査、投薬、注射の費用は包括点数から捻出しなければならず、必要な検査であっても赤字になるおそれもある。また、検査をやる意欲をそいでしまいかねないなどの問題点を残している。現に、外来総合を採用している医療機関に通院する患者さんから、「ほとんど検査をしてくれない」との訴えを聞くこともある。

がんの疑いがあるような場合など積極的に検査しなければならないときに、定額制のもとに検査を行うと、医療機関の持ち出しになってしまう。試案の医療費伸び率制はこの図式を医療費全体に持ち込むものにほかならない。

患者にとっては医療費が安いに超したことはないが、医療機関の側からすれば医療の質の低下が危惧される。当然患者が良質な医療を受けることを困難にすることを意味する。その点も国民に理解を求めていかなければならない。

その後提出された財務省案では医療費全体の伸び率が管理の対象で、厚労省案より更に厳しいものであり、今までの枠組みを変える大変革である。

政府は医療費の伸び率管理の枠組みに意欲を示しているが、仮に「目標伸び率」超過によるペナルティを医療機関が回避する行動(診療拒否)をとった場合、「医師の応招義務」違反にとどまらず、患者との親書賠償の問題も発生する可能性もある。

また、経済の伸び率にあわせた医療費抑制策は、医療関連産業の縮小を招き、消費や雇用も減少させかねない。更なるGDPの伸び率へのマイナス効果=悪循環をもたらすものである。

日本医師会の調査でも医療の経済波及効果は、他産業に比べ遜色無く、雇用効果はより大きな期待ができるとしている。医療費抑制ではなく、必要な医療費の確保こそ求められているのだ。

日本の医療費は、先進国の中で対GDP比では十八番目であり、社会保障の国庫支出は、イギリス12.4%に比べて3.4%で約4分の1であり、いかに低医療費で国民に医療を提供してきたか明白である。一方、他国の現状に目を転ずると、医療費が国家予算で決まっている英国では、膨大なウェイティングリスト(治療待ち患者)が発生し、社会問題化している。フランスでは予算制案(開業医の診療報酬予算化-予算超過額を均等に各医療機関に返還させる)は「公共性をうたった悪法に違反する恐れがある」と違憲判決が下され、廃案となった。ドイツでは、インフルエンザが大流行した年に医療費が上限を超えるのを嫌って、治療を必要とする患者が沢山いるのに、年度末に休診する医療機関が出たとのことである。

政府は、すでに先進国で失敗している制度を実施しようとしている。政府の計画がいかに道理が無く、無謀であるかを患者さんにも積極的に呼びかけて、多くの署名を集めると共に、断固阻止していこうではありませんか。

東京保険医新聞2001年12月5・15日号より