実態を反映しない医療経済実態調査

公開日 2002年02月15日

昨年12月「医療経済実態調査」(以下実調)の速報値が公表された。2年前と同様、一般新聞に「開業医の平均月収249万円」「サラリーマンの5倍」などという見出しが踊った。

しかし、個人開業医の「収支差額」は単純な生活費ではない。所得税などの税金の支払い、事業用借入金の返済、国民医療を支える医療機関の維持・改善のための設備投資資金など各種準備金の積立などを行ったあと、その残余が医師と家族の生活費である。さらに医師には退職金もないし公的な休業保障もないそのための保険料等も負担する。このように開業医などの個人事業者の収入は、事業としての収入と事業主個人の生活費の合計であって、サラリーマンの収入とは全く意味が違うのだ。

2001年6月実施の今回の調査では、医科無床・有床診療所は1999年の前回調査に比べて、医業収入・医業費用ともに減少した。医務費が伸びているにも関わらず収入は減少し、医業費用はそれ以上に減っている。相次ぐ患者負担増による受診抑制の影響で発生した減収分を人件費・減価償却費等の費用削減によって補い医業経営を維持しているという現状が明らかになった。特に、人件費と減価償却費の削減は近年では初めての事態である。開業医は医業経営を維持するため、収入減にあわせて徹底した費用抑制を余儀なくされている実状が示されている。

しかも、前回調査では最頻クラスが100万から150万円未満であり、全国中央値は「186万円」、最頻収支差額階級1施設当たり収支額は「127万円」と平均値とは大きく乖離していたが、今回調査でもこの傾向が続いているとみられる。「収支差額249万円」というのは、一般診療所の全体の単純平均にすぎない。収支差額を問題にするのであれば、確定値を待って議論すべきである。

実調は正確に、公平にされなければならない。ところが、事実の反映という意味では疑問の多い調査である。調査項目が膨大なため、小規模な開業医の多くは回答できず、比較的規模が大きく、かつ経営良好な医療機関の比重が高くなり、実態より高い数字が現れる傾向が指摘されている。また内科に比べ、産婦人科や精神科のサンプリング数は非常に少なく、診療科による偏在の問題がある。その他に医療機関の開設後経過による収支内容の相違、都市部と郊外など開設地域における相違など、調査結果に大きな影響を与える要因が考慮されていないことも問題である。

国民医療の質を保障する診療報酬の改定幅を検討する基礎資料としては不十分な調査であると指摘せざるを得ない。今回の調査結果を口実とした診療報酬の引き下げは到底認められるものではない。

東京保険医新聞2002年2月15日号より