国民医療を切り下げる診療報酬のマイナス改定

公開日 2002年04月05日

今回の診療報酬改定では、再診料、処方せん料、消炎鎮痛等処置、理学療法など繁用の点数が引き下げられ、実算的な引き下げ幅は公称を遥かに上回り、無茶苦茶な引き下げになっている。とりわけ整形外科の診療所では2~3割の減収になり、診療所の存続を危ぶむ声さえ出されている始末である。

診療報酬は国家予算審議の中で、政府与党、経済財政諮問会議、財務省、経営諸団体等が強く関与して改定幅が決められた。医療提供の経費を賄う診療報酬という本来の考え方を大きく踏み外し、不況・財政危機を理由に将来予測などもっともらしい数字を並べたてられ、診療報酬の引き下げが決定された。

また、診療報酬が複雑で国民にはわかりにくく「診療報酬は医師の収入、引き上げれば医師が儲かる」という誤解も根強い。その誤解を生む原因のひとつは、診療報酬が、医師が何をしたかによって他の職員の報酬等もまとめて受け取る方式になっていることである。他の職員に対しては、低めの点数が何項目か設けられている程度で診療報酬上の評価は「なし」に等しい。医師が受け取った診療報酬の中から職員の給与を払い、建物の維持管理費等々まで支払うことは知られていない。サラリーマンの給与とは異常のものである。

ふたつ目は、医療が他の制度の肩代わりをしている点である。たとえば、東京都では生活保誰による精神病棟入院患者が7500人いるが、東京都福祉局保護課長は、「在宅や保護施設等で、受け入れ体制があれば退院できる人も多い。それがないために長期入院になる」と言っている。保護施設等の肩代わりをさせられ、ここにも診療報酬は支払われているのである。

みっつ目は診療報酬として受け取っても薬剤費や材料費のように医務機関を素通りし、薬剤等の製造企業の利益として収まるものさえ含まれているのだ。

こうして見てくると診療報酬引き下げは確たる根拠があって行われたわけではない。今、倒産したり赤字に悩む病院がかなり多い。また医師以外の医療従事者の給与が安いのは求人広告で比較をすれば一目瞭然だ。さらに使い捨ての材料、注射器などを使用しているが、診療報酬の所定点数に含まれるとされ赤字である。そのはかにも不当に評価されているものが増えている。

副作用で死亡例も出るような高価格の新薬の規制など、無駄な医療費が使われていないかなどの検証は欠かせないが、職員に給料やボーナスを支払うのに四苦八苦するような診療報酬では困る。医頼機関が最終消費者として支払う消費税から、老朽化した病院・診療所の維持・建て替えの費用、医療廃棄物の処理まで診療報酬で賄うべきことは多い。診療報酬を下げられれば、医療の質の低下は避けられない。

国民医療費が高いのか安いのか、正確に答えられる人は誰もいない。それは国家予算の原資である税金を払っている国民が、予算の使途をどうしたいのかというところで導き出される。

2001年4月に実施した国の予算に関する財務省・財政制度等審議会インターネットアンケートによれば、国民の60%が「社会保障費はなくてはならないもの」と回答し、「あまり役立っていないと思うもの」として43%が「公共事業関係費」、24%が「防衛関係費」と答えている。つまり「社会保障は絶対必要、公共事業・防衛費は減らせ」ということである。国民の診療報酬への誤解を解き、事実を知らせていく必要がある。

社会保障の大事な柱である医療、診療報酬をむやみに引き下げるような暴挙は2度とあってはなるまい。

東京保険医新聞2002年4月5日号より