公開日 2002年06月25日
「厚生労働白書」のサブタイトルは「生涯にわたり個人の自立を支援する厚生労働行政」であった。今回、健保法改正案とともに国会に上程されている「健康増進法案」は、この流れに沿って、自立自助を強調し、国の責任を後退させている点で、注目に値する。
目的として第1条に「国民の健康の増進の総合的な推進に関し基本的な事項を定める」としていて、予防、公衆衛生全般にわたり幅の広い法案である。なお、この法案は2000年から発足し、すでにその一部は実施されている「健康日本21」の延長線上にあるものとも位置づけられる。
保団連は、この法案に対し6月5日号の全国保険医新聞に「総合的増進が図れるのか-公衆衛生の原則を覆す危険な企図」という談話を発表した。本欄では重複を恐れず、あえてその骨子に触れてみたい。
その1は、国の責務を「正しい知識の普及、情報の収集、整理、分析及び提供」に矯小化し「必要な条件・・・人・予算・組織・制度を整える」ことを放棄していること。
その2は、「国民は自助努力で健康増進に努めよ」との法案は、WHOの「到達しうる最高水準の健康を享受することは、…経済的または社会条件によらず万民の有する基本的権利のひとつである」とする健康観に逆行するものであること。
その3は、この法案は「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」に法的根拠を与えるものであること。付言すると、この運動は少子高齢化時代を迎えた現在、第1次予防として、いわゆる生活習慣病を減らすという目的で計画され、公衆衛生の新しい流れとも説明されている。生活習慣の改善によって疾病を減らすという考えは評価できるが、その中で疾病の自己責任論が強調され、社会的要因や環境による疾病観が軽視されてしまうという問題がある。
その4は、上記3点も含めて、公衆衛生の諸原則が覆されていく恐れをもっていることである。法案第9条で「健康審査の実施等に関する指針」を定めるとし、諸法律に基づいて行われる保健事業全般がこの「指針と調和が保たれたものでなければならない」としている点に、その危険性がみて取れる。
その他、タバコ対策は受動喫煙防止の努力規定のみであること、栄養改善法を「栄養摂取と経済負担との関係」の目的規定を削除して、本法案に取り込んだことなど、問題点としてあげられている。
東京保険医協会としても、この法案を討議し「真の健康増進法」について検討するとともに、現実に進行している諸課題については、常に、その問題点を念頭におき、「すべての人が健康で暮らせるまちづくり」に協力していくべきであろう。
東京保険医新聞2002年6月25日号より