「構造改革特別区域」構想について 医療機関への営利企業参入に反対する

公開日 2002年11月05日

景気の底ばいが続き、一向に回復の兆しが見えない日本の経済不況下で、経済活性化の起爆剤として「特区」構想が俄かに活発化している。政府は「構造改革特別区域」の設置を目指して、7月に首相を長とする「構造改革特区推進本部」を発足させ、10月18日から始まった臨時国会に「構造改革特区法案」を上程するという。地方自治体や民間から積実のあったすべての規制改革事項については、「全国規模」の規制改革の時期を明示(2年以内の実施)し、「特区(早急に実施)」として地方自治体・民間主導での規制改革の実現を目指す。特区では一定の効果が得られれば、全国に普及させることを目的としている。

「特区はパイロットケースであり、そこでは失敗してもいいとの思いでやらなければならない」(鴻池構造改革特区担当相)と、政府の意気込みも大きい。

特区では、医療・教育・農業といった「非営利」分野の規制緩和・市場開放が高らかに謳われている。医療関連では、地方公共団体や民間事業者などから25件の特区構想が提案され、株式会社の医療参入や混合診療の容認、地域医療計画による病床規制の適用除外が構想にあげられていた。

東京都内でも、三鷹市の「ITを活用した地域医療業務の拡大」や東大医学部付属病院の「混合診療の認可」、河北病院による「外国人医師の診療」「株式会社の医療参入」「混合診療」等、5特区が提案されている。

一方、自治体でいち早く医療特区構想に反応した神戸市では、地元の神戸医師会が混合診療、医療への企業参入などに強い反対意見を表明、日医も医療特区に原則反対を表明した。議論より政治力が優先され、特養には株式会社の参入を認めるなど、厚労省の姿勢は徐々に後退しているが、株式会社の医療参入反対の姿勢は崩さなかった。これらの動きを反映してか、10月11日に発表された「構造改革特区推進のためのプログラム」では、医療特区で最大の焦点となっていた株式会社の医療参入と混合診療の容認等が見送られた。しかし、「医療特区」の火種が消えたわけではない。

この間、「医療特区」について総合規制改革会議や特区推進本部から聞こえてきたのは、企業経営ノウハウの導入や資金調達方法の多様化、理事長要件の見直し等をすれば経営の近代化・効率化が図れるばかりでなく、それによって医療サービスの質を向上できるという議論ばかりだった。しかし、株式会社が参入している介護保険では過疎、不採算部門からの撤退が相次ぎ、すでに企業経営の弊害が現実に起きている。また、現在の株式会社のほとんどが資金調達方法は銀行に頼っており、株式公開をしている企業がディスクロージャーしているかといえばそうでもない。優良企業といわれても、倒産してしまうのである。挙句の果てには、企業経営の弊害を棚に上げ「社員が働かない」資質の問題にすりかえてしまう。このような不透明な経営実態、矛盾を孕んだ企業経営を挙げればきりがない。そもそも公共性の強い医療と、私的な利益追求が目的の営利企業は本質的に相容れないのであり、仮に営利市場に医療を持ち込めば、米国のように医療費は膨大な額に上るにもかかわらず、医寮を受けられない患者が続出することになる。

いま、内閣府に直結する経済財政諮問会議は、しゃにむに医療の営利市場化の方向を推し進めようとしている。その流れの中で医療特区が実現されると、さまざまな法的規制をはじめ、社会保障の理念、人権、医療の安全、倫理性などの制約までもが「規制緩和」の名のもとに取り払らわれ、経済の活性化のみが追求されるおそれがある。

国民皆保険制度を空洞化させる医療特区構想には、大きな危惧を感じざるを得ない。

東京保険医新聞2002年11月5日号より