公開日 2002年11月25日
今年4月の点数改定であまり目立たなかったが、10月からの老人等の一部負担金改定と相俟って、ひそやかに、しかし大きな影響が出始めているのが、薬剤投与日数の上限の撤廃である。ご承知のように麻薬・向精神薬・薬価基準収載1年以内の薬剤を除き、内服薬、外用薬は投与日数の上限が廃止され「主治医が必要と予見する期間」とされた。
すでに大学病院等の200床以上の病院では、患者が外来に集中し過ぎること、再診患者を診療するたびに赤字になる外来診療料や、特定疾患療養指導料の設定がなく、医療費は低めであるなどの背景もあって、慢性疾患患者に対し以前から長期投与がされていた。4月以前は4週間投与であったが、最近は、2カ月分、3カ月分、極端な例では6カ月分投与まで行われるようになった。
さらに、慢性疾患患者が長期投与を受け診療所への通院を月に2日から1日に減らすと500点程度点数が低くなり、一部負担金もそれだけ安くなる。老人等の一部負担金が10月から引き上げられ、如何にすれば医療機関に払うお金を押さえ込めるかを考えていた外来患者、さらに医療費を下げ、できるだけ支出を抑えたい健保組合などにとっては「渡りに船」の話である。近所の病院で「2カ月分薬をもらったから、ここでもそうしてほしい」「もうこれ以上負担金が増えると払いきれないから、何とか安くなるようにしてほしい」と訴える患者と、長期投与を勧める保険者が少なくない。
不況が続き無理もないと思う一方で、そんな算盤勘定の果てに、「長期投与」を選択してもよいのかという疑問が湧いてくる。療養担当規則20条によれば「投薬は必要があるときに行う。1剤で足りるときは1割を、必要があるときは2剤以上を投与する」とされ、さらに「みだりに反復せず、症状の経過に応じて内容を変更する等の考慮をしなければならない」とされている。
療養担当規則に謳われているように、患者の症状を十分に見極め、その上で投与期間が長くなってもよいというのであれば、真の意味での医療費の節約にもなるし結構なことである。しかし今回の「長期投与」の増加は患者の症状を十分に検討した結果であろうか。一部負担金の多寡に左右されて無理に長期投与している事例はないだろうか。
またそれらの問題とは別に、大量に出された薬剤は最後の分まで使いきれるのか、途中でのみ間違えたりしないのか、薬剤が変質することはないのか、処方内容の再検討は必要ないのか等々、医学管理上の問題も看過出来ない。症状が変化し途中で、処方内容が変更になったり、紛失したり、変質したり、結局無駄になるものも出てくる。
「安物買いの銭失い」である。安さに目が眩んで、場合によっては重篤な疾患の診断の時機を逸することもあるだろう。事態は深刻であり、やはり必要な診療を削ることはできない。患者に医療機関の門をくぐるのを躊躇させるような改定は誤りである。最近各新聞社等が行った国の施策に関する世論調査の結果は、国民が是非必要と思っているのは医療・福祉の充実であることを示している。それに予算を重点的に投入し、患者の負担を下げ、経費の賄える診療報酬にしてほしい。それらの再改定を心から望むものである。同時に現在の診療内容に無駄はないかを見直し、患者からは「十分なサービスを受けた、具合が悪いときはすぐに行ってみよう」と親しまれ、信頼される医療機関でありたいものである。
東京保険医新聞2002年11月25日号より