「患者になれない病人」を出さないために 緊急に低所得者の負担軽減策を

公開日 2002年12月05日

在宅患者から「1万円の負担金は払えないから、酸素を止めてほしい」、別の末期癌の患者は「お金がない。痛いのは我慢するから痛み止めの薬(内服の塩酸モルヒネ)は、もういらない」と悲痛な声が相次いでいる。10月から老人・高齢受給者の負担金が1割または2割の完全定率制に変更され、医療費が嵩む老人から悲鳴である。

一部負担金の完全定率化で、何よりも心配だったのは受診の手控えであった。その心配が現実のものになった。

たとえば、軽度の胃潰瘍の患者がいくらかかるか心配で医療機関に足が向かず我慢に我慢を重ね、巨大胃潰瘍になってから、あるいは胃癌に移行してから受診。そうであれば、通院して投薬だけというわけにはいかず、入院して手術が必要になる。患者はいらぬ苦痛を受け、医療費はかなり高くなって一部負担金も嵩み、踏んだり蹴ったりである。「患者になれない病人」が出始めている。

安心して病人が患者になるためには、負担金を無料または軽減することであるが、それの実現には時間がかかる。しかし、病気は待ったなしである。当面、対応できることは何か。

第一には、患者の一部負担の所得区分を低い区分に下げることで、具体的には収入の内訳や世帯構成等の再検討である。高齢者の1人暮らしや高齢者のみの世帯で収入の大半が年金という場合、さまぎまな課税所得控除があって低い所得区分に認められ、一部負担金の減額認定証が発行されたり、国保や介護の保険料が安くなったりすることがある。現役世代と同一世帯であれば、それらの適用はされにくい。高齢者と現役世代が同居していても、別生計として住民登録の世帯分離をすることは可能である。また、2割負担の受給者証が交付されている場合、世帯分離によって所得区分が変更になり、1割負担に変更される可能性もある。一縷の望みがあるのなら区市町村に相談するよう患者に勧めてみたい。

第二には、公衆負担医療の活用。具体的には生活保護法医療扶助受給である。保護基準が厳しいとは聞いているが、現に一部負担金の支払が滞るようであれば、福祉事務所の窓ロに相談したほうがよさそうだ。また適用されている人はわずかのようであるが、倒産、失業、長期休業の場合、国保の保険料や一部負担の減免制度もある。更に疾患の種類によっては、難病医務等の対象になるかどうか検討が必要な患者もいることと思う。

第三には、ジェネリック薬剤の活用等で診療報酬を節約し、一部負担金を下げることはできないものか。ジェネリックについては、品質や流通に問題があるなどの意見が出されているが、ジェネリック薬剤の採用もひとつの選択肢である。また、投薬を院外処方から院内処方に変更すれば医療機関より高めである薬局の調剤の報酬がなくなり医療費は下がる。変更が可能ならば一部負担金も安くなるが、調剤の場所や人の確保が必要であり容易に変更できない医療機関も多いだろう。

いずれにしても、すぐ役立ちそうな制度は限られている。最終的には、一部負担金の無料化または軽減である。無料化が一番よいが、定率性であっても負担金の月額上限を、外来は3000円程度、入院は3万7000円程度にして、改定前のレベルに戻すことなど、緊急な施策が必要である。当協会では厚労省や東京都に来年4月予定の社保本人3割負担を含め患者負担の軽減・凍結を強く要望している。

一部負担金が高くなったことで、世界一の長寿国であることを支えてきた、早期発見早期受診できる公的医療保険制度が揺らいでいる。医療の一番の使命は病人を治すことである。しかし診療を行う医療機関という土俵にのってくれなければ相撲はとれない。病人の足が医療機関に向かなけれは、医療費は逆に高騰し、公的医療保険制度の崩壊さえ懸念される。国民が必要としている公的医療保険に国の予算の重点配分をして制度を守っていくべきである。そして、今問題になっている老人・高齢者の一部負担、とりわけ、1割負担に耐えられない低所得者の負担金の無料化・軽減策の早期実施を心から望むものである。

東京保険医新聞2002年12月5日・15日号より