「混合診療」は医療を荒廃させる 必要なのは制度充実による経済の活性化

公開日 2003年05月05日

今年3月、厚労省をはじめとする各省庁から「医療制度改革」に関わるいくつかの提案があった。経済の逼迫が続くなか厚労省以外の、財政とかかわりの深い経済財政諮問会議や総合規制改革会議なども声高に「財政ありき」の公的な医療費抑制案を提出した。

3月28日に出された厚労省の「医療保険制度体系及び診療報酬体系に関する基本方針」では「患者のニーズの多様化や医療技術の高度化を踏まえ、特定療養費制度の見直しを行う等、患者の選択によるサービスの拡充を図る」とされている。つまり、患者の選択による自由診療を拡大したいのだ。一方では、同じ3月28日に閣議決定された「規制改革推進3カ年計画」の中では「保険診療と保険外診療の併用について更なる改革を図る」、そして「患者の選択に応じ特定の医療機関において患者からの料金の付加徴収できる範囲を拡大する」としている。

こうした「方針」や「計画」では「患者のニーズや選択」を大義名分として保険外診療、すなわち患者負担の自由診療を増やし、混合診療を普遍化したいのだ。これには「異議あり」、これは患者のニーズではなく財界のニーズではなかろうか。その理由を以下に述べたい。

財界はバブル時代の「ツケ」やアジア諸国の製造業の発展によって、従来の事業展開では先が見えず、新しい市場の開拓を目論んでいる。今までは不採算部門として見向きもされなかった医療・福祉分野が、財界、産業界から注目され、実際に「訪問介護」へは、コムスン、ニチイ学館などが派手な宣伝で乗り込んできた。しかし、厚労省が設定した介護報酬では採算がとれないと、1年も経たないうちに事業縮小という結末を迎えたのは記憶に新しい。

その轍を踏まないように「公的医療制度」から企業の採算ベースにのる「医療産業」へ変身させようと、自由に料金が設定できる自由診療やその他医療関連産業のシェアを増やしたいのだ。2001年3月に政府与党・社会保障改革大綱で「社会保障への民間力活用で経済へ貢献」が出されて以来、医療等で一旗あげたい人の心をくすぐる言葉が花盛りである。これらの「言葉」の大半は、各審議会等の財界に関連した委員の提案が取り入れられたものであろう。政府の「改革」と相乗りして財界は言葉巧みに、政府には予算支出がさらに減るからと、患者には個人のニーズによる選択の幅が広がると誘惑しながら、混合診療を布石として株式会社の医療への参入をも実現させたいのだ。

患者は何を想って医療機関の門をくぐるのだろうか。混合診療が表舞台に登れば、「経済能力なし」の患者は切り捨てられ、結果として患者のフリーアクセス権が阻害いされ、医療の選択肢が狭められる恐れがある。これが「国民のニーズや選択」であるはずがない。国民が何を必要としているのか、あるべき姿が明らかにされないままに、費用の負担が論議されるのは本末転倒である。国民の願いは公的保険・公的保障などの、医療・福祉充実である。これを充実させることは雇用を生み出し経済の活性化にも役立つわけで、国民の願いと景気回復は矛盾していないことも言っておきたい。

確かに「最新のものや技術が保険に収載されるのが遅く、保険診療では思うように保険診療ができない」「理想の医療をしようと思えばお金がかかり、それを全部保険でみるのは無理である」などの意見もあり、現在の保険診療は多くの問題点を抱えている。しかし、今政府から出されている「方針」や「計画」では、公的医療の荒廃を招く。ひどく「荒廃」した医療はもとに戻らないかもしれない。見当ちがいな「混合診療」よりも「医療のあるべき姿」の検討を行うべきである。

東京保険医新聞2003年5月5日・15日号より