「引き下げ」を前提とする診療報酬改定論議は本末転倒

公開日 2003年11月25日

11月13日、財政制度等審議会(財務相の諮問機関)は2004年度診療報酬改定で、技術料など本体部分の3%も含め、最低限4%程度の引き下げ方針を示した。さらに医療機関の収入増や経営効率化の観点を踏まえれば、5%の引き下げも可能だとしている。

9月末に出された財務省主計局の「診療報酬・薬価改定の論点(未定稿)」に対し、遅ればせながら、10月はじめに厚労省の「論点」が出されたが、今回のように財務省が先手に出たことは過去に例がなく、厚労省の専門性が尊重されず全て財務省主導で動く異常事態となっている。

さきに出された財務省主計局作成の「診療報酬・薬価改定の論点(未定稿)」によれば、財務省の方針を受け、財政制度等審議会・財政制度分科会等合同部会では、今月末にとりまとめる建議の中で来年度診療報酬「引き下げ」を明記する方向で大筋一致したという。

財務省の方針は、経済指標で機械的に診療報酬を下げようというものであるが、経済状況が悪化したからといって、医療水準を下げることはできるはずはなく、財務省には保健・医療・福祉を充実させる、改善させる、という視点が微塵もみられない。坂口厚生労働大臣が「財務省のように数字で切ってしまえば、日本の医療は崩壊する」と述べ、この財務省方針に強く反発しているのは当然のことであろう。

診療報酬5%のマイナス幅は、国庫負担の約3500億円に相当する(1%が約七百億円)が、この額は、8月に閣議決定された来年度予算概算要求基準(シーリング)における社会保障関係費の自然増削減額2200億円を大きく上回るものであり、納得できるものではない。

財務省の向井主計官が、この5%という数値について「ふっかけていると言えば、ふっかけている。しかし、交渉とはそういうものだ」と述べるに至っては開いた口が塞がらない。このような発言が日常まかり通る政策現場に日本の文化の未成熟さがみてとれる。財政制度等審議会には、29人の委員のうち、医療現場の担当者が1人しかいない。このような医療現場を知らない部外者がほとんどを占める審議会で日本の厚生行政が左右されてよいのであろうか。

2002年度改定による医療機関への影響は、同年10月の老人定率負担の導入、さらに2003年4月の健保本人等3割負担の導入の影響とも相俟って、極めて厳しいものがある。昨年1年間で医療機関の倒産は47件にものぼり、自主廃業も含めればその数は無数になり、医療機関は生き残りに必死だ。その上に、来年度もマイナス改定が行われれば、坂口厚労大臣の「日本の医療は崩壊する」という言は杞憂とはいえず、既に限界に達している診療報酬にこれ以上切り込みを加えることは医業経営を破綻させ、医療供給の質と量を低下させることになる。

厚労省の頭越しに出された今回の財務省方針は、国民の命を守る医療政策から国は撤退宣言を出したにも等しい。われわれは、財政的観点のみから出されたこの5%マイナス方針に断固反対するとともに、診療報酬の改定にあたっては、国民の「保健・医療・福祉」を守るためには何が必要なのかという、本質的議論をまず厚労省において最優先させるべきだと考える。

東京保険医新聞2003年11月25日号より