【主張】カジノIRと健康被害を考える

公開日 2017年10月23日

世界のギャンブル機器の3分の2が日本にある

府は、次の国会にIR実施法案を提出するとしている。

2016年12月にIR推進法が施行されて以来、ギャンブル依存症家族の会など多くの関係団体の反対を押し切り、形ばかりの論議をしただけで、国が認定するギャンブル場をあらたに許可するというのだ。

博を、刑法185条、186条で明確に禁じているのは、賭博・ギャンブルが国民の健康と安全にとって害悪であるからだ。この考えは、古今東西、かわらない常識といってよい。近年、世界各地に、場所を決めての「カジノ場」が法的に認められる国があるのは、こうした「常識」を前提にして、近年一部に高まっているギャンブル嗜好を、経済的に管理的に、国が安全に取り扱うための例外設定である。

が国には、戦後から「遊戯」という例外規定で、一般の町のどこにでも、ATM付きで朝から晩まで開店している12,000軒のパチンコ店があり、多数のギャンブル障害をうみだすことで、自己破産、自殺、家庭の崩壊をひきおこしている実態が既にある。ギャンブル障害の罹病率は厚生労働省の発表でも3.6%と世界で比類のない高さなのである。わが国でのギャンブル障害の多発に、居住区域近くの賭博場の存在は大きく関与しているのは明らかだ。だが、近年のわが国の風潮に、ギャンブル嗜好を容認する不健康さが増大していないかを慎重に吟味することも必要だろう。アルコール依存、薬物依存、買い物依存、スマホ依存等々と同様の脳内病変が考えられているからである。

ルウェーではギャンブル規制局がギャンブル機器を管理し、利用者自らに限度額を設定させ、中央サーバーで個人の利用を監視し、運営者に助言をする義務をもたせており、そうした費用にギャンブルによる収益を当てている。世界のギャンブル機器の3分の2を所有するわが国で賭博の法を提案する時には、まずこの実践を学び、踏襲せねばいけないはずだ。

また、賭博には、賭博する本人に「ギャンブル障害」という疾病をひきおこすだけでなく、反社会的勢力の増殖、マネーロンダリング(資金洗浄)の横行、多重債務問題の頻発、青少年への悪影響が付随する例証が、歴史的教訓として数限りなく存在する。

が国でも戦後、財政のためにと導入された「宝くじ」は、賭博罪の「例外として」最初に始められ、それを取り扱っていた勧業銀行は腐敗に晒されすでにない。競艇、オートレース、競輪、など自治体が運営を許されたものも、現在はほとんどの実施自治体が赤字補てんのために財政が圧迫されるようになっている。この傾向は世界のカジノ産業も同様で、ラスベガスのカジノ資本はアメリカ国内のいくつかの都市をカジノ化した後廃墟にしながらマカオやシンガポールに展開し、中国政府の腐敗防止政策によって斜陽化しはじめている。

IR実施法は、そうした海外資本の要求に、国の富と健康を売り渡す愚挙であるといえるだろう。

(『東京保険医新聞』2017年10月15日号掲載)

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