【主張】オンライン診療 ガイドラインの問題点

公開日 2018年04月02日

今年の診療報酬改定では、「パソコンや、スマホを用いた」いわゆる「遠隔診療」が保険収載され、ガイドライン(GL)が発表された。

東京保険医協会は、従来から通信技術の発展を患者のための医療開発に取り入れる可能性を担保しつつも、安易な利用がさまざまな危険を伴い、弱者の通院行動の妨げにすらなること、また安全性担保が過大な医療機関への負担になること等から、慎重な議論と実践の研究を経て導入すべきであると主張してきた。

今回の、来月から「遠隔診療」施行寸前に出されるGLは、まさにそうした危惧が杞憂でないことを示す結果になっている。 

まず第1の問題は、国や厚労省が、なんら通信情報安全管理の責任を取ることなく、通常のインターネット回線を利用しての情報のやり取り、サーバーの情報漏えい責任、情報管理責任のすべてを、それぞれの医療機関に負わせていることにある。危険や負担はハッカーによる漏えい事件ばかりではない。情報管理とは、その情報を共同で作り上げた患者の要望で、再度の開示を求められ、一部改変し、あるいは一定期間で削除する要請にこたえる必要があり、患者の「家族」や妻であっても誰がいつどこでその情報にアクセスしたのかの管理まで問われているのである。

第2に、こうした一医療機関が負うには困難な新たな技術の責任を、先人が作り上げてきた従前からの「診療行為」よりも安価な金額で提供することにある。オンライン医学管理料等の算定点数が、請求しづらい多くの制約をつけられ、かつ通常診療の点数よりも低く設定されているのが、拙速に導入を迫る経済財政諮問会議などへの「善意の」抵抗であると見る向きもあるが、その姿勢は国民や患者を愚弄するものといえるだろう。

医療の本質は、患者と医師とが「対面診療」を積み重ねていく中で、身体的および精神的状況への理解を深めあい、その人に相応しい有効な治療を導き出して行くものである。生活習慣病、精神疾患等々、患者との共同作業が必要な疾患が今後とも増加が見込まれる。そうした疾患では、患者と医師との「こころの疎通」を基盤に、患者の側にそれまでと違った生活や価値観の変容が必須であり、現状の「スマホ」などの端末では困難なことは想像に難くないが、今後の技術発達までふくめて、可能性の芽を摘むようなことがあってはならない。

第3に、こうした「診療」行為が、通常の診療行為と並行して行われることである。今回の「遠隔診療」の収載は「緊急時に30分以内に診療可能」な対象者に限っていることから、「都市部での『スマホ』での診療」を想定していることは明らかである。都市部で、効果や治療成績の差異も伝えられず『スマホ』での「診療」が通常の保険診療としておこなわれるわけであるから、患者が、通常の「対面診療」と同等の効果と安全性を期待するのは当然である。

その結果起こることは、多忙で、健康に留意する余裕のない労働者や、自ら受診するための移動能力をもたない高齢者が、こちらの受診方法を「選択させられる」ことであり、在宅の患者のもとに、医療者が「足を運ぶ」機会を奪われることにつながるであろう。

「患者の利便性重視」という美辞で安価で機能の低い臨床医療を提供することなど、容認されるものではない。

(『東京保険医新聞』2018年3月25日号掲載)

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