【主張】生保患者のジェネリック強要を考える

公開日 2018年11月26日

生活保護法第34条第3項は、これまで「被保護者に対し、可能な限り後発医薬品の使用を促すことによりその給付を行うよう努める」と規定されていたが、今般「原則として、後発医薬品によりその給付を行う」と改定され、2018年10月1日に施行された。これに対し、協会には「院内処方で後発医薬品の在庫がない場合でも、後発医薬品を処方しなければ指導の対象となるのか」等、困惑する声が会員から寄せられている。

改定生活保護法の施行にあたり、厚生労働省はパブリックコメントを募集し、143件の意見が寄せられた。そのなかで、「生活保護受給者であることを理由に後発医薬品の使用を原則化することは、差別であり人権侵害にあたるのではないか」という意見が71件と最多であった。

協会も、①後発医薬品の使用が原則とされると、生活保護受給者の治療内容の制限や医師の処方権の侵害・圧力につながる恐れがある、②憲法第14条の「法の下の平等」の趣旨に明確に違反する、とのパブリックコメントを提出した。

厚労省は、「後発医薬品の品質や効き目、安全性は先発医薬品と同等である」との見解を示しているが、先発医薬品と後発医薬品は、主成分が同じであっても同一物として扱うのは困難である。なぜならば、物質特許が切れていても製剤特許や製法特許が残っているために新薬と同一の製剤ではない場合が多いためだ。

具体的には、①主成分量の正確さ、②不純物の含有量、③溶解時間の安定性、④供給の安定性などの問題がある。①は、微量で大きな作用を発現するホルモン剤や循環器系の薬剤で重要となる。②は、後発医薬品にほとんど必ず含まれる不純物が、アレルギーやショックの原因となる事実がある。③は、薬剤が小腸に届いてから溶けたり、長時間かけてゆっくり溶けるようにするためには、高度な技術が必要である。④は、後発医薬品は欠品しやすく、災害時に安定供給できるかという疑問である。また、製品に問題が発生した時の対応にも不安が残っている。

厚生労働省はパブリックコメントで寄せられた意見に対して、「後発医薬品の使用の可否に係る判断については、あくまでも医師や歯科医師が医学的な知見に基づき判断するもので、本改正は医師や歯科医師の処方権を侵害するものではない」との考えを示している。しかし、医療現場では、医師が医学的な知見に基づいて「変更不可」で先発医薬品を処方したにも関わらず、薬局から「生活保護受給者には10月1日から、後発医薬品を処方することが原則となったにも関わらず、なぜ先発医薬品を処方したのか」など処方医への不要な疑義照会が寄せられる例もあり、医師の診療と処方権への圧力となっていることには疑いの余地がない。われわれ保険医の使命は、目の前の患者に向き合い、最善の医療を行うことだ。

政府は、今回の生活保護法の改定を、将来的に一般国民全体に対する後発医薬品の給付の原則化への突破口としているのではとの見方もある。後発医薬品の数量割合は、すでに65・8%(2017年)に達している。厚労省は「医療財政の健全化」を主張するのであれば、高薬価の問題にこそメスを入れるべきだ。

以上の理由から、協会は、生活保護受給者に対する後発医薬品の給付の原則化の撤回を求めていく。

(『東京保険医新聞』2018年11月25日号掲載)

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