【主張】保険証資格のオンライン確認に反対する

公開日 2019年10月18日

▶システムの概要

 保険証資格のオンライン確認が2021年3月から本格運用されようとしている。

 概要は次の通り。現在、世帯単位である保険証番号の末尾に二桁追加して個人単位化し、マイナンバーと1対1でセットにしてオンライン資格確認センターに登録する。医療機関の窓口では、提示されたマイナンバーカードの電子証明書を利用し、オンラインで保険証資格を確認する。ただし、保険証での受診も並行して継続される。

 

▶何が問題なのか

(1)マイナンバーカードの普及策の柱として

 現在大多数の国民はマイナンバーカードを持っていない(発行枚数、2019年6月18日現在1717万枚、13・5%)。また、昨年10月に行われた内閣府の調査でも53%の方が取得していないし今後も取得する予定もないと答えている。

 それに対して、政府は2022年度中にほぼ全国民が同カードを保有することを想定している。2年足らずで1億枚以上発行することになるが、その梃子として同カードの保険証機能追加が使われるのである。

 現在発行されている保険証は約8700万枚。保険証として使うためにマイナンバーカードが発行されれば、政府の目標はほぼ達成されることになる。事実、最近になって、国家・地方公務員に対して、2021年3月から保険証として使うためとして、本人だけでなく被扶養者の取得も促す文書が回っている。

 さらに、窓口では、カメラの前に立ち、顔認証で本人確認を受けることになる。顔認証という行為は現在、わが国ではごく一部でしか行われていない。それが一気に医療機関を舞台に8700万人に対して行われることなるのだ。

 政府はマイナンバー制度を開始するときから、ゆくゆくはカードを不要として生体情報で個人を確認することをめざしていた。今回のオンライン資格確認は、その計画を大きく前進させるものである。

 

(2)患者と医療機関の負担の増加

 まず、患者の立場から見ると、従来の保険証で受診できるものを、わざわざマイナンバーカードを作って持ち歩くのは、紛失等の危険が増すだけでメリットがない。

 また、医療機関では、インターネット回線と資格確認端末、顔認証用カメラ、端末またはレセコンの改修が必要になり、それを操作するための事務員の増員や教育も必要となるであろう。窓口での混乱は避けられない。

 さらに院内ネットワークがオンラインで院外とつながることになり、患者のプライバシー流出の危険性が出てくる。

 それに対して、オンライン資格確認のメリットとして国が挙げている、失効保険証での受診や、返戻の減少、窓口での保険証情報入力の省略、高額療養費の限度額適用認定証に係る事務量の減少などは、果たしてこれらの犠牲と釣り合うものと言えるだろうか?

 

(3)医療情報の集積・連結・利用のインフラとして

 政府はさらに、この制度を利用して、特定健診の結果他各種医療情報を集積、連結利用することを計画している。驚くことに、同システムを通じて電子カルテやレセコンから直接情報を集め、データベースを作ることも考えられており、そうして得られた情報をビッグデータとして各種研究機関や民間に提供することが計画されている。

 IT立国をめざす一環としての策のようだが、このような形で個人情報を利用することについて、国民の理解と同意が得られていると言えるだろうか?医療情報は個人にとって最重要プライバシーのひとつである。漏洩、目的外利用等が起こったとき個人の受ける被害は計り知れない。一生が左右される事態も考えられる。

 先の9月、エクアドルで国民全員の個人番号とそれにつながる情報が流出したという報道があったばかりである。わが国でも違法再委託により300万件以上のマイナンバーがついた税情報が流出している。

 マイナンバーに医療情報を蓄積し利用することには数々の危険が伴っている。

 国民と医療機関に不要な負担を強いるだけでなく、国民全体のプライバシー侵害につながりかねないマイナンバーカードによる保険証資格のオンライン確認に断固反対する。

(『東京保険医新聞』2019年10月15日号掲載)