【主張】『全世代型社会保障』の正体

公開日 2019年11月15日

 9月11日に第4次再改造内閣を発足させた安倍首相は、「『全世代型社会保障』(以下、『全世』)を大胆に構想する」とし、自らが議長となる『全世』検討会議を設置した。しかし『全世』の正体は、その発言の印象とは真逆の、「全世代にわたる負担増と、社会保障の削減」にほかならない。

「社会保障と税の一体改革」の流れを引き継ぐ

 2012年にスタートした「社会保障と税の一体改革」は、2014年に消費税を8%に引き上げるとともに、70~74歳の医療費窓口負担の2割化、介護保険の利用者負担3割の導入、生活保護基準の引き下げなどの負担増・給付減を実施した。診療報酬も引き下げであった。『全世』も、この流れを引き継ぐものだ。


いっそうの負担増・給付減が狙われる

 『全世』検討会議のメンバー16人の内訳は、安倍晋三総理、麻生太郎副総理以下6人の閣僚、民間有識者9人である。民間有識者枠の9人は、経団連会長、経済同友会代表幹事らを含めて、安倍内閣が乱発する会議で社会保障削減を主導してきた常連メンバーである。医師や介護現場からの代表者は一人もいない。

 9月20日に開催された第1回検討会議では、①社会保険の給付と負担、②医療提供体制、③雇用および年金制度等、の改革が必要という意見が出された。

①「社会保険の給付と負担の見直し」については、75歳以上の後期高齢者の窓口負担2割化、OTC薬のある医薬品を保険給付から外すこと、などが提起された。経団連、経済同友会、日本商工会議所の3団体は、医療機関を受診した際の窓口定額負担の導入を提言し続けている。また介護保険についても、6月に出された「財政審建議」で、利用者負担を原則2割に引き上げるべきだとしている。その他にも、ケアプラン作成費用を自己負担化することや、要介護1、2の生活援助サービスを介護保険給付から外すことなども検討されている。

②「医療提供体制の改革」については、地域医療構想を推進し、スピード感を持って病床数を削減すべきとの意見が出された。9月末に厚生労働省が全国で424の病院について再編・統合の議論が必要と発表したことが大きな批判を浴びているが、地域医療構想が強引な病床削減を狙ってきたことが、白日の下に晒された。

③「雇用および年金制度等の改革」については、65歳を超えても働けるようにし、年金の支給開始年齢を遅らせる方針が、示された。

 11月1日に開かれた財政制度等審議会では、2020年度診療報酬改定については、2%台半ば以上の削減方針が示された。また、過酷な保険料負担を軽減するために区市町村が実施している一般会計から国保特別会計への「法定外繰入金」は、早期解消を求められた。

 以上のような議論を踏まえ、年内に中間報告、来年夏に最終報告が出される。報告は介護保険関連法案、年金関連法案、高齢者雇用安定法改定案に反映して、通常国会への提出が検討されている。

 10月からは消費税率が10%に引き上げられた。国民生活や医療機関の経営等に深刻な影響が出ることが予想されている。
 協会は、『全世代型社会保障』の名のもとで実施される「負担増・給付減」の政策を強く批判するとともに、社会保障の充実を強く求めてゆく。

(『東京保険医新聞』2019年11月15日号掲載)