【主張】IRは社会の腐敗を生む

公開日 2020年03月03日

 政府は、東京地検のIR企業参入に絡む汚職事件の摘発が進む中にあっても、IRについての基本方針を白紙撤回することなく、「先送りにする」と発表した。推進母体の中心にいる菅官房長官は「IRと今回の事件は明らかに次元が違う」という。

 腐敗を生むのが必然のカジノであるが、誘致の段階で既にこれだけの腐臭を漂わせているのである。カジノは即時に白紙撤回すべきである。

 今回の東京地検特捜部の捜査は、中国系カジノ企業ドットコム社が5人の国会議員に賄賂を送った贈賄に対するもので、収賄側の一人が逮捕され、一人が受領を認めている。

 日本でのカジノ誘致は、刑法で長らく禁じられてきた賭博と賭場の運営にあたるため、まず「推進法」を成立させて、違法性を阻却する賭博方法の細目を決めることを可能にし、その後「実施法」で制度を決めるという、異例の二段階の立法で進められてきた。

 逮捕された秋元司衆院議員は、「推進法」を内閣府委員会でたった6時間の審議で強行採決した委員長である。「実施法」制定過程では施設設置を担当する内閣府のトップ、担当副大臣であった。また、議員5人ともに「カジノ議連」の中心構成メンバーである。まさに国の政治が特定の海外企業の賄賂に左右された、モラル破壊の最たるものといっていいだろう。

 秋元議員はドットコム社のプライベートジェット機で本社のある深センに飛び、近隣のマカオで「カジノ賭博に興じた」のだという。上客の富裕層へのサービスも、マネーロンダリングも斯く在りなんと思える接待であったのだろう。

 ドットコム社がこの犯罪を犯したのは、既に進出準備をしてきたアメリカのカジノ企業ラスベガス・サンズなどを押しのけようと画策したからだ。そのサンズは、参入するなら「施設は横浜か大阪」と言っている。しかし、当該の自治体の世論調査では8割近くが反対の意志を示し、激しい反対運動が起こっている。

 そうした中、菅官房長官などからの指示の下、首長は自治体公務員に、施設設置の地ならしや、カジノ導入への障壁を取り除く業務を指示している。こうした構造自体が地方自治、国民主権への冒涜以外の何物でもない。

 東京においても、都が臨海副都心・青海にカジノを誘致することを想定し、2012年から6566万円支出してきた。都議会や都民に諮ることなくカジノ調査に多額の公金を支出するなど許されることではない。都は2020年度にも1000万円の調査費を計上し予算要求している。

 カジノは腐敗であり、社会の腐敗は健康を蝕み、いのちの危険を生む。ギャンブル参加者の依存症増加ばかりでなく、貸し込みや取り立て、様々なマネーロンダリングなどで、反社会的勢力が蠢くカジノは、けっして家族連れが近づけるような場ではない。

 カジノ建設は、即時、白紙撤回をすべきである。

(『東京保険医新聞』2020年2月15日号掲載)