【主張】原発ゼロの社会を ~3・11を忘れない

公開日 2020年04月02日

原発事故は収束していない

 東日本大震災から9年が経過したが、避難者は現在でも約4・7万人にのぼっている。

 災害に追い打ちをかけた東京電力福島第一原子力発電所(福一)事故が、被害を複雑化して復興を妨げている。震災による直接の被害に加え、事故による避難で長距離を移動中に死亡した人、放射線量が高い地帯に取り残されたまま死亡した人、放射線のために海難救助を打ち切られた人など、多くの命が失われた。その後の避難生活に関連した死も含めれば、さらに多数の死者を出し続けている。

二度と事故を起こさない保証はない

 福一事故の後、各地で定期検査の時期を迎えた原発は順次停止し、2012年5月に国内で稼働する原発はゼロとなった。2014年には、原発稼働ゼロで夏を迎えたが、節電の取り組みも功を奏して、電力が不足することはなかった。

 他方、政府は原子力規制委員会を立ち上げ、電力会社や原発関連企業と一体となって、原発の再稼働を進めてきた。しかし、規制委が「世界一厳しい基準」といくら豪語しても、地震大国の日本で原発の過酷事故が二度と起きないという保証は全くない。

 2020年2月26日には、宮城県の東北電力女川原発2号機が審査基準に適合とされた。復興五輪を謳いながら、被災地での原発再稼働を目指すことが許されるのだろうか。

運転差し止めの判決も

 2014年5月21日、福井地裁は関西電力大飯原発3、4号機の運転を差し止める判決を下した。

 関電は、再稼働が電力の安定供給やコストの低減につながると主張した。しかし、樋口英明裁判長(当時)は判決のなかで、「極めて多数の人の生存そのものに関わる権利と、電気代が高いか安いかの問題を並べて論じるような議論に加わったり、その議論の当否を判断すること自体、法的に許されない」との考えを示した。

 また2020年1月17日には広島高裁が、四国電力伊方原発3号機の運転を差し止める仮処分を決定した。福一事故後、司法による運転差し止めの判断は5例目だ。森一岳裁判長は、「四電の、地震や火山リスクに対する評価および調査が不十分」と述べ、安全性に問題がないとした規制委の判断も誤りであると断じた。

 再稼働にお墨付きを与えてきた規制委の判断が、司法に否定されたことになる。

人類は核エネルギーを制御できない

 福一、チェルノブイリ、スリーマイル島などの原発事故は、現在の技術では人類が核分裂のエネルギーを制御できないことを明らかにした。原発が一たび事故を起こせば、誰も放射性物質をコントロールできない。

 福一は事故から9年が経過しても、格納容器の底に固着した燃料デブリを取り出せず、廃炉の見通しは全く立っていない。大量に発生し続けている汚染水を処理できる目途も立たず、海洋放出の恐れがある。使用済み核燃料が元のウラン鉱石と同程度の放射線量に低下するまでには約10万年かかるとされており、それまでの間、安全に保管する技術も確立されていない。

脱原発を決断する国々

 世界では脱原発の動きが広がり、欧州ではドイツ、ベルギー、スイスなどが福一事故後に脱原発を表明した。こうした潮流のなかで、政府が目論んだ原発輸出の商談は全て頓挫した。

原発ゼロの社会をめざして

 立憲民主党などの野党4党は2018年の通常国会に、①再稼働を認めず、すべての原発の運転を速やかに停止し廃止すること、②省エネに努めると同時に、原発の代替として再生可能エネルギー利用を進める、等をふくむ「原発ゼロ基本法案」を提出したが、未だに審議されていない。原発に対する国の基本姿勢について、国会でまともな議論をするべきだ。

 原発がひとたび事故を起こせば、多数の人命や健康、生業を奪い、環境も汚染するなど甚大な影響を及ぼす。私たちは、国民のいのちと健康を守る医療者として原発ゼロの社会を実現することを強く求める。

(『東京保険医新聞』2020年3月25日号掲載)