【主張】公立・公的病院の拡充を

公開日 2020年04月30日

 2019年9月、厚労省は公立病院や公的病院の約25%に当たる全国424病院について、「再編統合について特に議論が必要」として病院名を公表した。都内では10医療機関が対象となった。病床削減を目指す「地域医療構想」を実現するために、病院名の公表という強硬な手段が取られたことについて、都道府県や医療機関、患者など各方面から批判の声が上がった。

 その後、2020年1月17日に出された医政局長通知で、再検証対象医療機関に増減があったものの、約440医療機関が再検証の対象とされていることには変わりがない。

都立病院の独法化

 小池百合子都知事は2019年12月3日の都議会で、都立・公社14病院を地方独立行政法人化させる考えを表明し、続いて東京都病院経営本部は12月25日、「新たな病院運営改革ビジョン(素案)」を発表した。素案では都立病院が直面する課題として、地方自治法の規制等から、ニーズに応じた医療人材の確保が困難なことや、柔軟な契約手法によるコスト削減に制約があることを挙げ、新しい経営形態には独法化が最もふさわしいと結論づけている。

 これらは、公的医療を担う都立・公社病院の事業に対して「効率性」や「採算」を求め、コストの削減を図るという点で軌を一にするものである。

独法化で医療費削減を狙う

 独法化されれば、増収のために保険外の患者負担の増額や不採算部門の切り捨てが行われるのは必至だ。既に独法化された板橋の「東京都健康長寿医療センター」は独法化された後、病室141室(25%)が有料個室とされた。最高2万6千円の差額ベッド代が求められるなど、患者・利用者の負担が増加している。

 一部メディアは「都の400億円の赤字を解消するために独法化が必要」と報じているが、400億円は一般会計からの通常の「繰入金」であり、都も2019年12月の定例都議会で、「赤字とは認識していない」と認めている。

 公立・公的病院は感染症、周産期、小児、難病、高度精神科、災害医療などの民間では採算の取れない医療を担っており、都民や国民のいのちと健康の砦としての役割を果たしている。「繰入金」は、こうしたいわゆる行政的医療のための費用である。大阪府では府立病院を06年に独法化し、運営負担金をこれまでに半減させている。独法化すれば、東京都の繰入金や運営負担金が年々削減されていくことが予測され、行政的医療を維持・拡充していくことは困難になるだろう。

公立・公的病院は必要不可欠

 今般の新型コロナウイルス感染症への対応では、都立・公社病院が受け入れ先となっている。

 2月26日に開催された厚労省・総務省の「地域医療確保に関する国と地方の協議の場」で、高市総務相は、感染症病床の6割を公立病院が有していることを挙げて、「今こそ公立病院にその機能の力を発揮していただく時」と述べた。

 再検証対象となった約440の公立・公的病院については、3月末までに結論を得ることになっているが、全国知事会・社会保障常任委員会委員長の平井伸治鳥取県知事は、「公立・公的病院の意義はむしろ高まっているのではないか。新型コロナウイルス対応で逼迫した状況にある中、3月末の期限で本当にできるのか」と疑問を呈した。

医療費削減は医療崩壊を招く

 イタリアでは新型コロナウイルスの感染拡大によって、医療崩壊に直面している。仏紙レゼコーによれば、イタリアでは過去5年間に約760の医療機関が閉鎖され、医師5万6千人、看護師5万人が不足しているという。EUが求めた財政緊縮策として、政府が公立病院の統廃合や医師の給与カットなどの医療費削減策を進めた結果、多くの人材が国外に流出し、緊急事態に対応できなくなったと指摘されている。今後検証が必要だが、医療崩壊が医療費削減の結果だとすれば、批判は免れないだろう。

 ウイルスだけでなく、発生が危惧される南海トラフや首都直下地震などの大震災、近年多発する豪雨による水害等、災害はいつでも起こりうる。都民、国民のいのちと健康を守るセーフティーネットとして、公立・公的病院の役割はますます大きくなっている。

 国民のいのちを守り、福祉の増進をはかるのは、国や地方自治体が持つ責務であり、放棄することは許されない。公立・公的病院の拡充が今求められている。

(『東京保険医新聞』2020年4月5日号掲載)