保険医の生活と権利を守る東京保険医協会

[主張]緊急事態宣言と政治への信頼

公開日 2020年04月30日

新型コロナ拡大の経緯と日本政府の対応

 4月8日、「新型コロナ特措法」に基づく緊急事態宣言が発令され、5月6日まで実施することとされた。早くも経済対策の内容などをめぐり、多くの疑問が出されている。
この間の、新型コロナ感染の拡大の経過を見てみよう。2019年12月、中国武漢市から始まった原因不明肺炎は新型のコロナウイルスによる感染と確認された。翌年1月16日に日本での初の感染者を確認、20日にクルーズ客船「ダイヤモンドプリンセス号」が横浜港出港、2月1日、同船から香港で下船した香港男性が新型コロナに感染していたことを確認、集団感染に至った。

 以後、現在に至るまで政府の対応に厳しい意見が相次いだ。「閣僚会議」には議事録もないことも明らかになった。安倍首相は2月27日、唐突に全国の小中高校や特別支援学校に、3月2日から春休みにかけて、臨時休校を要請すると発表したが、実際に休校するかは各自治体や学校の判断に委ねられるとした。この時の「連絡会議」会議録は目下整理中として明らかにはされていない。

特措法改正と私権の制限

 2012年の民主党政権時に策定された「新型インフルエンザ等対策特別措置法」を発動すべきとの意見に対し国民に十分な説明を尽くすことなく、新たな「改正案」に拘り続けた。3月10日、政府は前記特措法の適用対象に新型コロナウイルス感染症を追加する改正案を閣議決定し、13日、極めて僅かな審議時間で成立させた。

 新型コロナが急速かつ全国的に拡大し、国民生活や経済等に甚大な影響の恐れがある場合、専門家等諮問委員会の判断を踏まえ、首相が期間、区域を定め「緊急事態」を宣言する。具体的な対応を策定するのは都道府県知事で、大阪府や東京都等の「要請、お願い」が法的根拠をもつことになる。国・都道府県・市町村がすでに定めている新型インフルエンザ等対策行動計画を新型コロナ対策にあてはめ拡充することが基本となる。

 こうした措置は私権を相当程度制限することとなる。国会審議では報道機関への対応が報道の自由への介入の恐れがあるのではないかとの懸念が出されたが曖昧さを残した。感染拡大で国民の不安や社会的経済的打撃は極めて深刻だ。「緊急事態宣言」を早急に出すべきだとの意見は日に日に増していった。

WHOが提言政府は信頼回復に努めよ

 ここで世界保健機関WHOが2005年に発表した「アウトブレイクコミュニケーションガイドライン」を取り上げる(日本語訳は2020年3月30日、日本環境感染学会HPに掲載)。感染症のアウトブレイク時における「リスク、アウトブレイクコミュニケーション」の重要性については、従来から一部の識者専門家等から指摘されてきた。

 WHO提言を見てみよう(以下、日本環境感染学会訳)。「疾病のアウトブレイクは避けられないことであり、予測不能な事態であることも多い。アウトブレイクを取り巻く環境は、あらゆる公衆衛生の中でも特殊で、しばしば、不確実さ、混乱、緊急感といった特徴を伴う。

 一般にマスコミを通じたコミュニケーションが、アウトブレイク環境のもう一つの特徴である。残念ながらコミュニケ―ション失敗の例が山ほどあり、そのためにアウトブレイク制御が遅れ、市民の信頼と協力関係を損ない、経済的・社会的・政治的混乱が不必要に長引く結果に至っている…アウトブレイクコミュニケーションの最優先目標は、信頼を構築し、維持し…市民の信頼を失うと、保健、経済、政治などの観点から深刻な影響を及ぼしうる。市民を守る役割の者に対して、多くの市民が信頼を失うほど、市民の不安は高まりアウトブレイク対策の指示に沿った選択や行動をとる可能性が低くなり…」「速やかな公表…時期、卒直さ、包括性が…重要」と指摘している。

 安倍首相は先の臨時休校要請に際し、全く根拠や決断の経緯を示すことなく、こう答えている。「いまからの2週間程度、国内の感染拡大を防止するため、あらゆる手を尽くすべきである。そのように判断いたしました。」政府の後手に回った曖昧な方針が招いている混乱を象徴するかのようだ。

 安倍内閣の下、疑惑や不信感を少なくない国民が抱いている。一方、政府や行政への批判に対し、意識的、無意識的とも言うべき「同調圧力」が見られるようになっている。

 WHO提言に一度耳を傾けたい。世界とも緊密に連携し一刻も早く鎮静化を願ってやまない。
 

(『東京保険医新聞』2020年4月15日号掲載)