[報告]コロナ禍での医業経営の厳しさ―4/23厚労省記者会見に参加して―

公開日 2020年07月01日

コロナ禍での医業経営の厳しさ―4/23厚労省記者会見に参加して―

政策調査部長、経営税務部担当副会長 吉田 章

 

 

 

 協会は4月23日、厚生労働省内で記者会見を行い、新型コロナウイルス感染症拡大で都内の多くの医療機関が経営に困難を抱えている現状を訴えました。

 記者会見に出席した一人として、ご報告と現状についての考えを述べさせていただきます。

●記者会見に至る経緯

 4月に入り、患者数の減少傾向がますます強くなっているという意見が多く、政策調査・地域医療合同部会で現状がどうなっているのか緊急アンケートを実施しようということになりました。

 4月14日からの4日間で1千221件の回答があり、急いで集計しました。

 その結果は驚愕に値するものでした。50%以上減収となった医院が30%以上にものぼったのです。40%以上減収の医療機関は50%に達しました。また、消毒液やマスクが、やはり多くの医院で不足していることも確認できました。

 医療機関が医療的に危険に曝されていることは知られていても、経済的には恵まれているというのが一般的感覚ではないでしょうか。飲食店などの窮状はよく知られていますが、まさか医療機関にも同じような事が起こっているとは行政、政治家を問わず、ほとんどの国民が知らなかったことでしょう。

 この結果をぜひ4月23日の国会行動で各議員に知ってもらい、そして、国民の皆様にも知ってもらえればと、厚生労働記者会(記者クラブ)に声をかけたところ、興味を惹いたようで、限られた時間ではありましたが快く引き受けてもらえました。

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●記者会見の様子

 会見には、須田会長、細田病院有床診部長、私が参加しました。参加社は日経、産経、読売、朝日、東京、北海道各新聞社のほかNHK、共同通信、日本テレビ、テレビ東京ほかでした。

 日頃はどちらかというと医療に厳しい傾向がある新聞社も、熱心に質問をしてくれていました。読売新聞からその翌日院内感染による病院の救急外来停止による影響について取材を受けた程です。さらに、医療機関の窮状について産経新聞から取材もありました。

 会見では、院内感染などによる救急医療の崩壊について細田先生からしっかりお話がありました。消毒液、マスクの不足の現状も具体的に説明できました。

 その他、PCR検査の推進やアビガンの治験等、協会が最近発出した要望書も資料につけて各社に渡しました。PCR検査に関しては、検査センターの課題や、出場する開業医の立場や思いについて記者から質問があり、須田会長が新宿区の現状を説明しました。

 1時間という短い時間でしたが、質問も多く充実した会見になりました。タイムリーな話題で、保険医協会の存在をアピールする絶好の機会になったと思います。

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●医業経営の厳しさ

 病院を含めた医療機関の経営状況は、4月に入り激変したと思われます。

 4月24日の東京新聞1面に、全日本病院協会の猪口会長が、「このままでは多くの病院が6月に資金ショートする、助成が必要だ」と訴える記事が出ていました。診療科によっても異なるでしょうが、資金的に厳しい医療機関が少なからずあるのです。

 医院が自己所有だったり、長年診療を続け安定しているところは50%以上の診療報酬減収に耐えられたとしても、開業後まもなく借金も多く、患者数もまだ十分増えていないような医療機関にとっては、まさに喫緊の死活問題です。

 4月の減収が大きく反映されるのは5月、6月以降ですので、今月はまだ良いとしても、6月には経営体力が十分でない医療機関は本当に診療を続けられなくなってしまうことが危惧されます。

 個人の経営努力でこの事態を克服することには限界があります。時限的に認められている電話等初再診でカバーしきれるものでもなく、診療報酬を引き上げれば、やっとの思いで毎日を過ごしている患者さんの負担に跳ね返ります。

 このため、家賃の減免ほか何らかの支援が早急に必要であると訴えたわけです。

●感染の不安と向き合いながら

 一番大きな問題は、患者さんは病気の治療を続けなくてもよいと思っているのではなく、医院に来ることでコロナにかかるのではないかという恐怖心があるから受診しないのだということです。

 私たち医師も、受診しても絶対に大丈夫とは患者さんに言い切れないと思います。日々診療している私たちでさえ感染の不安を持っているのが実情で、受診を積極的に勧めることも気がひけます。私たちにできることといえば、受診したいという患者さんができるだけ感染しないように医院の環境を整えるというのが精いっぱいではないでしょうか。

 世の中の感染者数が激減するか、有効な薬剤かワクチンが開発されこの疾患に対する有効な治療法が開発されるか、あるいは集団免疫を獲得するまでこの状況が続くことが予想されます。

●最後に

 今回の記者会見はまさにタイムリーでインパクトのあるものだったと思います。会見の翌日、保団連がこの会見発表の内容を元に医療機関支援などの要望書を政府に提出しました。また、日医も4月28日の記者会見で松本常任理事が、受診抑制に伴う医療機関の減収について「診療報酬以外の交付金、政府の特例的な対応を求めていきたい」と訴えています。

 当協会の目的は「保険医の生活と権利を守り、国民医療の向上をはかる」です。緊急アンケートの結果からも、会員医療機関の医業経営を守る取り組みが、私たち執行部には強く求められていると思います。

 会員の皆様、ご一緒にこの難局を乗り越えていきましょう。今後ともよろしくお願いいたします。

(『東京保険医新聞』2020年5月25日号掲載)