[主張]医業経営を守り医療崩壊を防げ

公開日 2020年07月01日

外来患者・保険診療収入ともに減少

 新型コロナウイルス感染症が国内で拡大する中で、医療機関の経営は大きな打撃を受けている。協会が4月に実施した会員医療機関への緊急アンケート「新型コロナウイルス感染症による医業経営への影響」には、外来患者数、保険診療収入ともに、9割超の医療機関で減少しているとの回答が寄せられ、前年同月と比べて5割以上減少しているという医療機関が3割超に上った。

 感染が疑われる発熱の患者だけではなく、慢性疾患等での定期的な受診や、健診、予防接種などについても、院内感染の不安から抑制傾向にある。感染のリスクを避けるために、通常行われている処置や検査の一部ができなくなっているケースも多い。

 厚生労働省は臨時的な扱いとして、電話等再診での薬の処方や電話等初診を認める事務連絡を発出しているが、電話等で行える医療には限界があり、医療機関の大幅な収入減を補填するものではない。そもそも診療報酬での補填は、医療機関ごとで補填率に差が生じ不公平であること、コロナ禍の中で暮らしを圧迫されている国民の負担増となることから、相応しい方法ではない。

 新型コロナの影響は長期化が予測され、緊急事態宣言が解除されても状況がただちに大きく改善することは望めないだろう。患者減による経営難から閉院に追い込まれる事態を回避するには、一定割合の保険診療収入の減少に対する公費補填、家賃(テナント賃料)補助制度の創設など、公費を投入しての対策が必要だ。協会は他業種とも力を合わせ、家賃補助制度の実現に向け、国と東京都に対し要請を続けている。

不足する防護用品
ただちに国の責任で供給を

 患者だけではなく、医療者も日々感染の不安を抱えながら診療を行っている。

 上記アンケートでは、マスクは約3割、消毒用エタノール製剤は約4割、その他の防護用品は8割超の医療機関が「足りない」と回答している。フェイスシールドを市販のクリアファイルで自作した、雨合羽やゴミ袋をガウン代わりにしている等の事例も寄せられている。

 院内感染の予防は、医療を成り立たせる最低限の条件であり、国はただちに上記の物品を全医療機関に供給すべきである。緊急事態宣言下で医療機関の自助努力に任せている現状は異常であると指摘せざるを得ない。

雇用調整助成金
さらなる改善を

 多くの医療機関が経営困難に陥る中で、スタッフの雇用管理の見直しを余儀なくされている。従業員の雇用を維持するための休業手当に要した費用を助成する制度として「雇用調整助成金制度」があるが、5月11日時点で、各地のハローワークなどで受け付けた相談は約27万件、申請は1万2857件あるのに対し、支給決定は5054件に留まっている。厚労省は度重なる特例措置によって、申請手続きの簡素化、助成率引き上げ、審査の迅速化など改善を図っているが、次々に変わる制度は経営者を混乱させている。

 協会は、申請手続きのさらなる簡素化、審査体制の拡充、5%売上減少の生産量要件の撤廃、給付の上限額の撤廃を求めている。

 様々な声を受けて、政府は上限額の1万5千円への増額、家賃補助等、今国会での成立に踏み切った。ネットでの批判がきっかけとなり、検察庁法改定案も断念せざるを得なかった。

 地域医療を支える一般診療所や民間病院の経営を守り医療崩壊を食い止めるため、会員の声を基に国や都への働きかけを続けていく。

 


 

(『東京保険医新聞』2020年5月25日号掲載)