[主張]マイナンバーカードが特別定額給付金を遅らせた

公開日 2020年07月20日

 新型コロナウイルス対策として一律10万円を支給する、「特別定額給付金」が実施された。経済活動の自粛による減収の一部を、速やかに補填する計画だった。申請は、①区市町村から届く書類に押印し、②預貯金通帳の表紙のコピーと、③写真付き身分証明書(免許証など)のコピーを添えて、郵送すれば完了だった。ところが、申請にマイナンバーを使う「オンライン申請」が大混乱を招き、給付が大幅に遅延したのである。

 オンライン申請では印鑑の代わりに、マイナンバーカードのICに記録されている、「公的個人認証の電子証明書」を使用する。この証明書が、本人の申請であることを証明する。

 しかし、マイナンバーカードを使うためには、有効期限が5年間しかない4桁の暗証番号と、電子証明書のための6~16文字の英数字のパスワードを使うので、間違えたり、忘れたり、決め直したりする人が続出し、役所の窓口が大混乱したのである。マイナンバーは一生変わらないが、カードの有効期限が10年間しかなく、カードの更新には新しい顔写真と手数料が必要なことは、意外に知られていない。

 そもそもマイナンバーは、複数の行政機関が保管する個人情報を必要に応じて集めることが目的だった。今回の給付金は住民登録された人に、区市町村が現金を給付するだけである。他の行政機関との連絡は必要なく、マイナンバーを使う理由はなかったのである。オンラインで申請をする場合、手入力された家族の名前などに間違いがないか、住民票と照合する手間が余分にかかる。住民票の住所と郵便に使う住所が違う人はたくさんいる。ミスがあれば、再提出が必要になる。

 では、なぜ手間のかかるマイナンバーを使わせようとしたのか。10万円を給付する機会を利用して、普及率が16・8%(2020年6月1日現在)しかないマイナンバーカードを広めようとしたのであろう。溺れかかった人を助ける前に、住所氏名を聞くようなものである。

 マイナンバーと口座番号を紐づけておけば、簡単に振り込めるという考えは錯覚で、マイナンバーは給付とは無関係だ(本人の生存や意思、家族構成の変化などを確認せずには、給付することができない)。次の給付の準備をするためなら、口座番号を区市町村に届け出るだけで十分である。児童手当の受給や、水道料金の引き落としなどのために、口座番号を区市町村に届け出ている人はたくさんいる。この場合にも、マイナンバーは無関係である。オンライン申請が給付の遅れを招いたことから、郵送の手続きに一本化する自治体が増えた。

 自民、公明、維新の会の3党は6月8日、希望する人のマイナンバーと預貯金口座を紐づけして、「給付名簿」を作る議員立法を、今国会に提出した。

 一方、高市早苗総務相は6月9日、マイナンバーと預貯金口座の紐づけについて、一人1口座の登録を義務化する考えを明らかにした。マイナンバーには顔写真がついており、健康保険証や預貯金通帳が紐づけされれば、いよいよ監視社会に近づくことになる。

(『東京保険医新聞』2020年7月15日号掲載)