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【会長声明】「黒い雨」訴訟の広島地裁判決を尊重し、国、広島県および広島市が、控訴を取り下げることを切望する

公開日 2020年08月19日

2020年8月18日

【会長声明】「黒い雨」訴訟の広島地裁判決を尊重し、国、広島県
および広島市が、控訴を取り下げることを切望する

東京保険医協会
会 長 須田 昭夫
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  広島への原爆投下直後に降った黒い大雨を浴びたとして、住民らが被爆者健康手帳の交付等を求めた、いわゆる「黒い雨」訴訟は5年前に始まった。国は、爆心地からおよそ南北19キロ、東西11キロの範囲を「黒い雨」が降った「援護区域」とし、この中にいた人には健康診断を無料でおこない、国が指定した11の病気のいずれかを発症すれば、被爆者健康手帳を交付して、医療費などを支給してきた。
 しかし、2008年に広島市が36,000人を対象に行ったアンケート調査では、「黒い雨」が降った地域は今の「援護区域」の6倍にも及び、援護区域の大幅な拡大が必要であった。2010年に広島市と広島県が支援の拡大を国に要望したが、国の検討会は「すべての国民が戦争被害を受けた」ことを強調し、「区域の拡大は困難」との結論を出していた。被曝に苦しむ人々がいる現実を無視する態度である。「黒い雨」裁判で広島地裁は、「もっと広い範囲で黒い雨が降った事実を確実に認めることができる」と認定した上で、「黒い雨で汚染された水を飲み、汚染された食品を食べた結果の、内部被ばくを考慮する必要がある。雨が降った時間だけで扱いを分ける合理性はない」と指摘した。内部被ばくは長期に亘りやすく、たとえ短期少量であっても、深刻な影響を受けることが知られている。
 7月29日の広島地裁判決は、原告ら(男女84人、うち9人は死去)の証言に不合理な点はなく、原爆に関連づけられる病気もあるとして、原告全員の被爆者認定と、被爆者健康手帳の交付を命じた。75年間放置されてきた被爆者に、遅すぎる救済の機会がつくられたのだ。それにもかかわらず8月12日、国と被告の広島県、広島市は控訴することを決めた。一方で安倍首相は、「上訴書の判断をあおぎながらも援護区域の拡大を考慮する」という。この言葉は、あきらかに整合性に欠けている。広く救済する心があるならば、まず地裁判決を受け入れて、つぎに救済範囲を拡大すればよい。
 原爆の被害は深刻である。敗戦直後、広島管区気象台の報告書には、「黒い雨」によって作物が枯れ、池や川の魚が死んで浮かび、住民も脱毛や下痢に苦しんだことが書かれていた。そのような簡単な文章であっても、米国自身が驚愕した非人道的な被害を隠ぺいするために、GHQは公表を許可しなかった。
 原告の多くは「黒い雨」の危険性を長く知らされず、75年たった今でも放射線障害に苦しんでいる。救済されずに亡くなった方々もたくさんいるはずだが、被爆者に数えられていない可能性さえもある。広島地裁の判決を、政府の誤った方針を改める機会にするべきだ。
 日本国政府は米国を忖度し、自国の国民を欺き、困難を放置し、非人道的な核兵器の実態隠しに加担してきたことを、やめるべきだ。国と県と市は、「黒い雨」訴訟の判決を受け入れて、控訴を取り下げることを切望する。原告に残された時間は短い。

以 上

黒い雨訴訟控訴に抗議する会長声明[PDF:74KB]

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