[主張]安倍政権の政策を振り返る 「公助」を第一に転換を

公開日 2020年11月11日

 2012年12月に発足した第2次安倍政権は、2020年8月まで7年8カ月続き、安倍前首相の連続在任日数は歴代最長となった。長さのために犠牲となった点はなかったか。

「アベノミクス」の成果は? 

 「アベノミクス」と呼ばれた経済政策は、日銀の異次元金融緩和を継続し、デフレ解消を目指したが、通貨価値を低下させて株価を上昇させただけで、国民生活が向上したという実感は得られなかった。

 大企業は減税による利益を「内部留保」に回し、労働者の消費税負担が増えて実質賃金は低下し、格差が拡大した。日本企業は国際競争から取り残され、国内の産業空洞化が進行した。

 2014年4月に5%から8%へ、2019年10月に10%へ消費税率が引き上げられ、医療機関が負担する消費税損税は拡大した。景気が1年半前から後退局面に入っていたことは既に指摘されていたが、政府統計からも明らかになった。

民主主義の軽視

 国論を二分し、世論調査で「反対」が多数の法案についても、数の力で強行した。

 2013年12月の「特定秘密保護法」、2015年9月の「安全保障関連法」は、憲法違反との指摘が相次ぎ、立憲主義の否定であると批判を受けた。一方、安倍前首相が掲げた憲法改正は、国民の支持を得られず、在任中に国会に上程されることはなかった。

 第201回通常国会は2020年6月に閉会したが、10兆円におよぶ巨額の予備費を計上する一方で、安倍前首相は閉会中審査への出席にも応じなかった。憲法53条の規定に基づく野党の臨時国会召集の要求はすべて無視された。異論を敵視し、少数意見に耳を傾けない政治姿勢は、国の最高機関である国会での議論を軽視しているのではないかと指摘された。

政治の私物化

 安倍政権では、政治の私物化、公文書の改ざん・捏造・隠蔽・廃棄が大問題となった。2014年5月に発足した内閣人事局が人事権を掌握し、官僚の間では、政権への「忖度」が当たり前の姿となった。

 森友・加計学園問題、桜を見る会問題、また成立は断念されたものの検察庁法改正案等は、政治の私物化を象徴している。疑惑の解明、国民への説明責任はいまだに果たされておらず、国民の政治不信を深める結果となり、支持率を低下させた。

迷走と行き詰まり

 新型コロナウイルス感染症対策では、迷走を繰り返した。突然の一斉休校に始まり、通称「アベノマスク」は愚策による浪費であった。休業補償なき自粛要請の方針は、多くの国民を苦しめた。

 コロナ禍収束後の経済を回復させるためにGOTOキャンペーンが用意された。収束前にキャンペーンは開始されたが、推進業者が潤うばかりで、本当に援助が必要な人たちには支援が届いていない。

 各種支援制度の整備は後手に回り、国民からの激しい要求に制度改正を繰り返した。コロナ禍で経済が落ち込み、国民が苦境に陥っているときに、体調悪化を理由とする辞任に至ったことは残念だ。

社会保障改悪を推進

 安倍政権は、社会保障費の伸びを「年平均5千億円」に抑える方針のもと、「全世代型社会保障改革」を掲げて、「経済・財政再生計画工程表」を作成し、社会保障の全世代にわたる給付削減と負担増を推進した。

 75歳以上の後期高齢者の窓口負担について、現在1割負担の後期高齢者のうち一定の所得のある人の負担を2割に引き上げることを計画しているが、工程表通りに進んでいない。協会・保団連が取り組んだ反対署名をはじめ、国民各層の運動が実現を阻んでいる。

「公助」を第一に政策転換を

 コロナ禍で、感染症病床の不足が明らかになり、保健所は統廃合の結果、パンデミックに対応できず、機能不全に陥った。国民に「自助・互助・共助」を求め、社会保障=「公助」を削減してきた結果、社会から余力が失われ、緊急事態に対応することができなくなっていたのではないか。

 全国の公立・公的病院は、新型コロナウイルス感染者の受入れ・治療を率先して行い、大きな役割を発揮した。今国民が必要としているのは、削減されてきた「公助」を回復し、国民のいのちと暮らしを守る施策が速やかに実行されることだろう。第2次安倍政権を検証し、「公助」を第一に、国民を守る政策への転換が今求められている。

(『東京保険医新聞』2020年10月15日号掲載)